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2020年6月 5日 (金)

私の本棚 25 完全図解 邪馬台国と卑弥呼 2015 その5 景初遣使 2025

 別冊宝島2244 宝島社                  2014年11月発行
 私の見立て★☆☆☆☆ 乱雑、粗雑な寄せ集め資料  2015/06/18 追記 2020/06/05 2025/02/22, 11/17

7

*加筆再掲の弁
 最近、Amazon.com由来のロボットが大量に来訪して、当ブログの記事をランダムに読み囓っているので、旧ログの揚げ足を取られないように、折に触れ加筆再掲したことをお断りします。代わって、正体不明の進入者があり、自衛策がないので、引きつづき更新を積み重ねています。

*景初遣使と下賜物
 口語訳批判に戻る。
 ここでは、原文の景初遣使にまつわる記事の翻訳について批判を加える。

27. 景初遣使
 ここでは、史料に忠実に、景初二年と原文のまま読んでいるが、本書19ページおよび21ページでは、景初三年と、根拠を称すること無く読み替え/改竄している。本書を、一冊の書籍資料としてみるならば、各部を継ぎ接ぎして並べるのではなく、全体としての説明が必要であろう。

28. 「その年の十二月」
 と書いた後に続いている魏の皇帝曹芳は、原文には書かれていない。
 原文のまま、景初二年の遣使と読むのであれば、この時点の皇帝は、実名を挙げていないものの、曹叡(明帝)であり、明らかに解釈が混乱している。

*皇帝の付かない景初三年
 本書22ページなどでは、景初三年時の魏皇帝は、曹叡(明帝)と書かれている。無知は、いやしがたいものである。(Ignorance is fatal.)
 景初三年時の魏皇帝は「曹芳」である。皇帝曹叡は、景初三年一月一日になくなったので、以後皇帝曹芳なのである。ただし、元号改元は、皇帝没後の翌年年頭なので、皇帝の付かない景初三年が続いていたのである。

 因みに、当代皇帝の実名を口に出したり、書き出したりすることは大罪であり、王朝が存続している間は、そのような大罪は避けねばならないのだが、後世の論者としては、そう呼ぶしかないのである。
 なお、皇帝曹芳のことが、時に斉王芳と書かれている。これはも学術的に正しいものだが、即位前および廃位(退位)後の地位を言うのであって、通常、少帝と呼ばれるが、それでは不明確なので、皇帝曹芳と呼んだらどうかということである。少なくとも、在位期間中、皇帝斎王芳と呼ばれてはいない。

 さて、魏皇帝の詔に、下賜物を「難升米、牛利に持たせ」るとは書かれていないと解釈するべきである。とても、手土産の粗品を持参した面々の持ち運びのできるような代物でないのは明らかである。「録受」せよと書いているのである。
 おそらく、翻訳者の脳裏には、御自分が想起した皇帝の言葉が鳴り響いていて、それをすらすらと書き取ったのだろうが、原文を遠く離れた創作となっている。
 魏皇帝の詔は、「録受」せよと書いているように、使節に目録を持たせるから、当座はそれを読んでおけ、追って、実物を送り届けると言っているのではなかろうか。
 あるいは、帝詔起草時、皇帝は、下賜物を持って帰らせるつもりだったが、皇帝没後の実務が付いていけなかったかも知れない。

*下賜物兵站
 下賜物の搬送に、大層な準備時間と労力がかかるという事情に加えて、早世した明帝曹叡の国葬、即日後継皇帝に就職した新帝曹芳の即位儀礼など、優先度の大変高い国事が延々と続いたはずであり、結局、下賜物の発送は、正始元年(ないしは以降)となったと思われる。
 ここまでの走り読みでわかるように、皇帝詔書にまつわる記事の翻訳の際に、翻訳者は、自分なりに原文から読み取った成り行きを、いわば一幕のお芝居として描き、それを現代語で書き出しているようである。
 しかし、「自分なりに読み取った成り行き」は、すでに< 当時の官人でもなんでもない後生東夷である翻訳者の創作的な補充を多分に含んでいて、そのために、時代考証の視点から見ると「現実離れ」した情景を書き出してしまったものと見える。

 と言うことで、新皇帝就位後の正始元年(ないしは二年)に、帯方郡から倭国に使節が派遣され、その際に、詔に記された小山のような下賜物が届けられたと見られる。

 この使節は、皇帝の名代である魏国使節と共に下賜物の運搬と護送のために、かなりの人数の兵士と人夫を伴った大使節団となっていたと思われる。

 原文によれば、倭国には言うに足りるほどの牛馬がいなかったと言うことだから、人夫の担送は続くのである。それまでも、韓半島からの到来物はあったであろうから、ある程度の担送人夫はいたであろうが、手不足になって、周辺の農漁民に対し「労役」を課したのであろう。

 以上のように、「魏志倭人伝」口語(現代語)訳は、労作であり、のどごしの良い滑らかな日本語になっているが、滑らかな文章にする際に添加された後代記事のために内容が不正確との疑義が拭いがたく、丁寧に言うと現代著作物となっているので、それは、決して、古代史史料ではなく、本書の言う一大プロジェクトの第一歩としては、ものの役に経たないと率直に言わざるを得ない。

 念のため言うと、池田氏は、このような形で、言わば、権威を持った「聖典」として公開されるとは思っていなかったはずであり、ここまでに挙げた批判の大半は、本書編集者の分析にすべきである。

 こうした指摘は、かなり耳に痛いものなので、ひっそりとご本人に説明できれば良いのだが、そうも行かないので、ここに書き残すだけである。
 故人の名誉のために、どなたかダメ出しをすべきではなかったかと思われる。

未完

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