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2020年6月 5日 (金)

陳壽(中国史)小論- 6 (2013) 年長大

                                 2013/09/20  追記 2020/06/05  2022/06/08
◯「年長大」の架ける橋
 中国語の「長」という漢字には、二つの独立した意味があります。
 一つの意味は、「長短」の度合いで、長いという意味(形容詞)です。
 もう一つの意味は、成長する、年齢が長じるという意味(動詞)です。

 それぞれの意味で、中国語の発音は少し違うのですが、文字は同じなので文脈で区別することになります。

 これに従い「長大」には大別して二つの意味があります。
 一つは、我々日本人にもなじみの深い、何かが大きいという意味(形容詞)
です。
 もう一つは、日本人にはなじみのない、人が成人(18歳)に達する、大人になる、という意味(動詞)
です。

 ここでは、「年長大」としているので、年齢の意味(動詞)
であることが明示されています。ただし、ここでも、大人であるという意味(形容詞)ではないのです。

 前に「已」が付くと、そう遠くない過去に成人に達したという現在完了の意味が読み取れれます。私の推定と異なって、女王共立がかなり昔であり、女王が成人をとうに過ぎていると現地で周知だったら陳壽は別の言い回しをしたはずです。

 後ほど、笵曄という大家の誤解の例が出てきますから、見過ごしても仕方ないのですが、それにしても、笵曄が、「年長大」は、「年長」+「大」、つまり年がいっていると読み解いたのは、元々の意味と変わってしまっている(逸脱)と思われます。

 陳壽は、丁寧に「年」を追加して「已年長大」と書き、体格の話でないことを明らかにするとともに、「已」で成人に達して間もないと示唆しているのです。一字の過不足もない見事な書き方です。

 なお、「長大」は、随分古典的な成句であり、中国語事典には、三国志(ということは、発生したのはそれ以前の歴史時代)から、近代・現代まで用例が収集されています。
 また、古典的な意味なので日本語の古典表現として国語辞典(例:広辞苑)にも載っています。

 「長大」の詳しい意味と使い分けは中国語の辞典/事典(例:百度百科)に出ているので、興味のある方はご確認ください。なお、現代中国語ではありふれた用語のようです。

 私の以上の論点から見ると、魏志倭人傳の「已年長大」という言葉は、これまで誤解され続けたようです。

 古田武彦氏は、近著「俾弥呼」でも、女王老齢の風評に反対して「長大」を30代と論じていますが、これは、魏朝皇帝曹丕の就任記事の用例に基づく解釈であり、百度百科にも小論の「成人になる」に続いて収録されている合理的な解釈です。

追記: 古田氏の早合点
 正確に言うと、当用例は、「呉志」であり「魏志」ではありません。また、孫権と臣下の問答の引用であり、当時、呉の宮廷で語られていた言葉遣い(地域用語)と言うだけであり、古典書本文ではないのです。ここでは、文章解釈はしていませんが、別記事で精査しています。一言で言うと、「老い耄れ」曹操の跡継ぎ曹丕を、「ケツの青い若造」と言っているのであり、曹丕の実年齢を正確に形容しているものではないのです。このあたり、古田氏にしては、速断・早計でもったいないのです。と言うものの、人は、「しめた」と悦んだときに、色々見落としをするのです。

*引例失当
と言う事で、三国史編者が、古典書に照らして適切と認めたものはないので、用例審査をすれば不適格と言えます。用例を早のみこみするのは、古田氏の史家としての限界と言えます。いや、大抵の史家は、大抵の場合、早のみこみで、しばしば誤解するので、どうという事はないのですが。

 しかし、それでは、字句を吟味して、未成年一女子として共立された女王が、今や成人に達したという倭人「長老」の感慨が失われ、陳壽の本意ではないと思います。陳壽は、なかなか味のある記事を書いているのです。
 因みに、魏使の取材に答えている「長老」は、別に、唯の年寄りではなく、倭人の最高指導者ということです。何れか有力氏族の元老なのです。

 私は、現に目で確認できる資料はそのまま読み取る主義ですから、魏志倭人傳の内容を紹介しています。また、以上は、中国語の解釈として、普通の手順なので、特に根拠を示していないことが多いのです。

以上

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