私の本棚 8 都出 比呂志 古代国家はいつ成立したか 改 4/5
岩波新書 2011年8月 2014/05/23 分割再掲 2020/06/17
*記事批判 承前
*「古墳時代」ずり上げの暴挙
作者は、ここまでに現れたように、自説の展開に好都合なように諸資料を踏みならしているのではないかと不信感が募ります。「学術」を標榜するにしては、誠に、無責任な言い切りと言えます。伝奇小説、フィクションと呼ばざるを得ないのです。
作者は、古墳時代に、「地方権力」の中でも近畿政権が勢力を増して、支配を広げていったといいますが、作者が吊り上げた古墳時代を真に受けると、邪馬台国時代に、すでに古墳形成が活発であると言うことになります。
そんなに早く大規模古墳を作り始めたら時代が錯綜すると思うのですが、お構いなしです。いずれかの時代に起こったこととしても、それがいつであったかと証する確たる文献がない限り、考古学による年代比定は、常に推測/憶測となるはずです。
果ては、継体時代に「日本」(?)が朝鮮半島に進出して古墳を形成したことになっています。これもまた、壮大な古代ロマン(妄想)と言わざるを得ません。作者には、心地良い成り行きでしょうが、それは、適確な裏付けがない限り歴史考証でなく、作者の夢想でしかないのです。「浪漫派」宣言なのでしょうか。
*史料誤引用
84ページ 宋書倭国伝によるとして、「」書きで申し立ての趣旨を引用していますが、引用の諸所で、原文史料の簡潔な語句を潤色しているので、誤伝の類いではないかと懸念されます。
宋書に収録された上表文には、この通りに書かれていないのです。引用手法のルール違反です。コピーペースト手違いでしょうか。
*誤記の踏襲
ついでながら、ここで出てくる「宋」は、中国南北朝時代の南朝側の宋であり、劉氏が皇帝となったので「劉宋」と呼ばれます。
南宋と呼ぶのは、後世の趙氏の宋と錯乱していて、明らかな間違いです。
清張氏の「空白の世紀」にも、同一の誤記があるので、どちらかが引き写ししたのか、どこかに親亀がいるのか、興味を引かれます。コピーペーストの手違いでしょうか。
*史料誤解の山積
以下の諸国形勢の書き方も、不正確な言い回しが多く、作者の(無)理解のほどが懸念されます。
高句麗は、「朝鮮半島北端」の国などではなく、おそらく、西暦紀元前二世紀頃に現在の中国東北部に発生した国です。それが、二世紀頃になって、朝鮮半島北部にも勢力を伸ばしてきたものです。
以上のような思い違いや恣意のこもった言いつくろいが多数見受けられるので、本書の学術的な著作としての主張に信を置くことができません。
*素人迷走の抑制策
総合すると、作者は、文献批判の習慣がなく、また、相当中国史に(かなり)弱いようですが、それならそれで、自作を発表する前に、中国古代文献に造詣の深い、信頼できる専門家のチェックを受けるべきではなかったのでしょうか。そうした当然の手順を踏んでいれば、ここで、素人のアラ探しに身をさらすことはなかったのです。大変、勿体ないことです。
あるいは、出版社編集部の校閲の範囲とも見えます、新書部門は、原稿校正しないのでしょうか。信用をなくすというと聞き心地が良いのですが、既に、新書は、一切信用はされていないのでしょうか。
未完
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