私の本棚 8 都出 比呂志 古代国家はいつ成立したか 改 3/5
岩波新書 2011年8月 2014/05/23 分割再掲 2020/06/17
*記事批判 承前
それ以外の点として、著者の史料解釈と言うか史眼には疑問を感じます。
76ページ 魏晋政権移行の読み解きは不可解です。
司馬懿が敵対勢力を一掃したのは、正始十年(249)であり、倭国景初遣使の十一年後です。
倭人伝を含めた魏志をそのまま読むと、倭国の使者が着いたのは、(明帝)曹叡の末年であり、引き続いて養子となっていた曹芳が、司馬懿と曹爽の補佐下に即位し、司馬懿の簒奪は随分後になります。
司馬懿が敵対勢力を打倒するのは、一旦、政権から身を引いて、老耄と見せた擬態の後です。何か、勘違いをして、このように書いたのでしょうか。受け売りするにしても、相談する相手を間違えたのでしょうか。
*時代考証の不具合
続いて、三国時代の魏は、南の呉と東北の公孫氏に挟まれて危機にあったとしていますが、魏の現実の脅威は、西方で、魏を打倒して漢を再興しようと関中に侵略した蜀漢であり、これは、妥協を許されない大敵なのです。
ついでは、蜀漢の進撃に乗じて、東方で江北への進出を図る呉ですが、呉は、江南での自立を狙っていて、魏を打倒することまでは目論んでいなかったので、ついぞ、国力を傾けて侵略してくることはなかったのです。何しろ、東呉の都合で心服してくるのですから、真剣に争うものではないのです。相談する相手を間違えたのでしょうか。
東北の公孫氏は、これら三国に比べて断乎小者であり、遼東で自立を図る小政権に過ぎず、後漢の「郡」であったものが、魏に追従したものであり、公然と自立したのは、討伐を承ける直前の短期間のことです。これを魏の「宿敵」と呼ぶのは、誇大表現も甚だしいのです。
公孫氏が、魏を打倒して中原を制する野望を持っていたとしたら、それこそ、身の程を知らない「夜郎自大」と言うべきものです。
魏と公孫氏の国力の差を示すように、司馬懿は、蜀漢との闘争の合間に、呉の進出を恐れることなく、決然と大軍の討伐軍を率いて進撃し、速戦即決、と言っても、一年かかったのですが、それはそれとして、一方的に討ち滅ぼしてしまったのです。
しは、中国史に疎かったとして、受け売りするにしても、相談する相手を間違えたのでしょうか。
自作の展開に都合がいいからと言って、周辺諸国の情勢を手前味噌の解釈で煮染めていくのは、感心しない手法です。信用をなくす原因です。
*謎の公孫氏銅鏡
80ページ 卑弥呼は三世紀初めに公孫氏から画文帯神獣鏡を入手し、近畿周辺首長に配布したとしますが、史料に基づかない空想(古代ロマン)です。そのような記録は、一切残っていないのです。
確実なのは、近畿周辺の首長ないしはリーダーが、何らかの手段で画文帯神獣鏡を入手したということだけであり、入手の時期も入手先も、何もわからないと言うのが正確な見方です。あえて自説を打ち出すのであれば、推定の根拠と共に、推定であることを明記するものでしょう。
*日本最初の王
82ページ 卑弥呼を「日本最初の王」と呼んでいますが、意味不明です。
「卑弥呼」の時代「日本」は存在しないので意図的な時間錯誤です。
魏志倭人傳には、卑弥呼以前は男王と明記されています。「男王」は「王」ではないのでしょうか。
それ以前、倭に、王はいなかったのでしょうか。なぜ、そう思うのでしょうか。
ここまでに、古代(三世紀のことか)における「日本」が何を指すのか明示されていないので、現代人の感じる「日本」と見ざるを得ないのですが、古代「日本」は、存在しないので、王などいるはずがないのです。
また、作者自身が一度「西日本」と言い、次は、「日本」というのは迷走しています。
要するに、素人考えで迷走して、読者の信用をなくしているだけです。それとも、受け売りするにしても、相談する相手を間違えたのでしょうか。
未完
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