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2020年6月 5日 (金)

陳壽(中国史)小論- 4 (2013) 食い物のうらみ

                                     2013/09/18 2022/06/08

 ここまで読んでいただけた方は、辛抱強い読者と思いますので、ここからは、なるべく短く区切るようにします。
 陳壽の史官としての資質を明らかにするために、魏志倭人傳記事の面白みについていくつか例を挙げます。

 魏志倭人傳は、前半部分の記事では、魏朝正始年間に女王国に派遣された魏使の出張報告書を利用していると思われます。

 その中に、倭人は、韓半島に比べて温暖な土地で食料に恵まれているはずなのに、味気ない生菜を食べている、と言う記事に続いて、野生の薑(はじかみ)や椒(山椒かな)のような香辛料類や酸っぱい橘(酢橘かな)が採れるのに、それを食べ物に振りかけて、味を引き立てようとしない、という記事を採用しています。

 「倭地溫暖冬夏食生菜」 「有薑橘椒蘘荷不知以爲滋味」
 魏使は、帯方郡治から北九州に到達するまでの韓半島内の行程で、寒い思いをしたのでしょうか、海峡を越えて北九州に来たら温々して、毎日過ごしやすかったのでしょう。

 ただ食に関しては、「毎天百五」(今日も寒食、明日も寒食)とでも嘆いたのでしょうか。寒食でもあるまいに、来る日も来る日も、火を通さない生ものの味気ない食事ばかり、という嘆きが聞こえそうです。ご苦労様というところでしょう。
 寒食(かんじき)とは、春秋時代の介士推を偲ぶと言われ、冬至から百五日目の寒食節の日、火を通さない食事するものです。

 古来、食い物の恨みは恐ろしいと言います。魏志倭人傳は皇帝の目にも触れる公文書なので、不平不満を生の形で書いていませんし、魏使がそれをどう克服したかは書かれていませんが、倭人に依頼して食事の味付けを中国人好みに改善したのでしょうか。

 ひょっとすると、懐から香辛料の包みを出して、どさっと振りかけるようにしたのでしょうか。倭人が、使節の不作法に眉をひそめ、強い匂いから身を遠ざけるのが見えそうです。
 そうしてでも食事を改善しなければ、食の不満から強烈なホームシックにとりつかれて、長期滞在は大変な苦痛になったでしょう。

 陳寿は、このように味のある記事を書いているのです。

 私は、現に目で確認できる資料はそのまま読み取る主義ですから、魏志倭人傳の内容を紹介していきます。

以上

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