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2020年6月10日 (水)

新・私の本棚 遠山美都男 卑弥呼誕生 改訂新版    2/2

 洋泉社 歴史新書Y       2011年6月発行             2020/06/09
私の見立て ☆☆☆☆☆ 零点  よいこは真似しないように

*破格の構成
 氏の断言は、倭人伝底本の特定がなく、諸史料批判査読が欠けていて不適切です。また、漢文原記事が示されないのです。

 氏の脳内世界の「倭人伝」は、実は現代人著作なので、見たところ、氏は、本書の著者に要求される古代史料の解読を放棄しています。これでは、氏の真意を知るすべはありません。かくして、氏は、自身の脳内を徹底的に『史料批判』し、結果公開する義務を有しています。なぜなら、本書は読者の時間と注意力を盗み取るからです。

*裏切られた暗黙の保証
 いや、別に何も保証していないから、不適切と言われる筋合いはないというのでしょうが、本書のタイトル、惹き句、著者の肩書きから、学術書としての要件を備えていると示唆しているのであり、示唆されている要件を満たしていなければ、「詐称」なのです。

*先賢の提言
 救われることに、同ムック導入部に田中俊明氏の概論として、「古典派」とも言うべき史学王道が掲示されています。

 「卑弥呼は三世紀の倭国王であった。このことを伝えるのはほぼ『魏志』倭人伝のみである。卑弥呼がどういう人物、どういう王であったか知るには、『魏志』倭人伝を精査するしかない。ここでも、『魏志』倭人伝を通して、卑弥呼について考えられることを簡単に整理しておきたい」

 以下、ものの理屈、学会の良心が説かれるのですが、遠山氏は「浪漫派」なので田中氏の「古典派」提言は、聞く耳を持たないようです。

 無知で苦言に耳を貸さないでは、聞くに堪える論考は期待できません。

*本書の評価
 本書は、以上にやり玉に挙げたムック記事と違い、限られた紙面でなく新書の紙数を費やすことが可能であるにも拘わらず、批判対象である史料の原文参照は他史料を含めて存在しません。底本は書かれていないし、書き飛ばしている口語文風の読み解きの根拠も不明です。無責任な盗用です。

 氏は、倭人伝記事が自身の抱く浪漫に沿わないので、至る所で資料改訂していますが、それは浪漫派「創作」であって資料そのものではありません。読者は、氏の創作を読まされているのです。

 氏が倭人伝の「イメージ」が誤りと見ても、それは、氏が追従する諸氏の「イメージ」が歪んでいるのか、氏の視覚問題か、何れか/ないしは両方の原因によるのです。

*盗用疑惑しきり
 終始、現代語らしい文章を参照しますが、誰がどのような根拠で書いたものであるか書かれていない事が多いので、不審を感じても確認するすべがありません。言うなら、引用元を明記しないのは立派な盗用堂々たる剽窃です。

*責任の所在
 このような破格の著作が刊行された責任の一端は、編集部が、引用文献、特に底本の掲示など、論文形態の書籍の必須事項を承知していながら、それらの必須要件を欠いた書籍を刊行したことにあります。いや、参考文献一覧はありますが、全体を通じて本文注記が乏しいから、氏の試験、憶測なのか、だれかの意見の丸写しなのか根拠不明になります。

 それにしても、冒頭でこれまでの倭人伝研究を総括する触れ込みながら、安本美典、古田武彦、森浩一、直木孝次郎の諸賢書籍が漏れています。切りがいいという事でしょうか。諸論評は、総じて陳腐で真剣味が欠けています。

◯まとめ
 冒頭部分の荒廃で足が止まりましたが、本書全体が無意味だとまで言うつもりはないものの、有意義な考察があっても、以上のような非論理的な随想、古代史論書籍と見せかけた素人考え羅列では、総じて、読者を偽る魏書、いや偽書と言われかねません。編集部は職業人の務めを知るべきです。

*追記
 巻末年表に「239 魏の明帝が卑弥呼に親魏倭王を賜う」とありますが、魏帝曹叡は景初二年末に病臥し三年元日に病没したから、景初三年に、明帝が卑弥呼に親魏倭王を賜う事は不可能です。調べればわかるので、何か「フェイク」資料を無批判に踏襲したのでしょうか。

 そもそも、中国暦は、今日の世界で広く流通しているキリスト教暦とは、ずれがあって、景初三年の元旦は、CE(キリスト教紀元)239年の1月1日とは違うのです。まして、景初三年は、明帝曹叡の命日が元旦に重ならないように複雑な処理をしているので、CE239年とどう重なって、どうずれるのか、古代史学者でも混乱している例があるのです。つまり、遠山氏が混乱していても、それは不名誉ではないのですが、それを、このような年表に仕立てることで、ごまかすのは、「フェイク」ですよ、と言う事です。

 無知で粗雑では付ける薬がありません。
                                以上

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