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2020年6月18日 (木)

私の本棚 6 上垣外 憲一 倭人と韓国人 改  3/3

 講談社学術文庫2003年 2014/05/21 分割再掲 2020/06/17

*あり得ない官費負担
 こうした画期的な遣使は、東夷が自発的に行うのでなく、中国側から半ば強制的に指示するものですが、中国側が、このような壮大な奴隷献上使節団派遣に要する食料、人件費、経費などを丸抱えしたとは思えないのです。

 百六十人の奴隷を伴った倭國使節の朝見で漢の威光は高まるでしょうが、洛陽までの巨額の旅費を丸ごと負担することなど論外でしょう。

*人員過剰~演出仮説
 宮廷には、数千人とも思われる、有り余るほどの終身雇用の「官奴」がいました。多少文字が読め、指図に従って雑用諸事をこなすので人手が足りないことはないのです。そこに、言葉の通じない、つまり、字が読めず、数を数えられない野蛮人が来ては、行儀作法の仕込めない「でくの坊」であり、ものの役に立たないお荷物です。

 それくらいなら、いっそのこと、官奴を選抜して東夷の扮装をさせ、献上儀式を演出すれば、皇帝の威光は確実に高まるのです。

 本紀の倭国使節来朝は史実でしょうが、倭伝記事は、このような演出による賑々しい儀式とすれば、誠に合理的な計らいと言うことになります。

 本論筆者は、物々しいばかりで実態の疑わしい「陰謀」論に荷担しないのですが、長々しい論考の果ての「演出」は、双方に手軽で、得られる効果が大きいので、十分ありえたものと考えます。百六十人の奴隷を倭国から洛陽まで連行、献上するという壮大な画餅に比べれば、妥当な推定と思うのです。

 どちらの判断が成立するか決定する根拠は存在しないから、奴隷貿易説の持論を廃し、作業仮説、私見として控えめに扱うのが学術的対応と思います。

*安直、公序良俗に反する摘発
 中国正史の記載とはいえ、後漢書の片々たる記載を論説の基底まで膨張させ、安直に、学説の形を借りて空想を紡いでいるように思います。

 いや、国内史学の視点から一介の「外国史料」に過ぎない後漢書倭伝を史料批判すれば、范曄による創作記事の疑いが否定しがたいと思うのです。

 後世の視点から人道に対する重罪を告発された当時の治世者には、告発に反論して自らを弁護する事が出来ないから、かかる告発糾弾は慎重にすべきです。まして、倭人傳諸国の中で、壱岐・対馬はほぼ確実に比定されていて、著者は、物証の提示なしに先入観に促されただけの状態で、壱岐・対馬の行った商行為は(非道な)人身売買と断定しています。

*勝手極まる独善
 著者は、本件に関して、自らを検察官兼裁判官なる法と秩序の執行者に擬して、このような重大な摘発と断罪を行っています。

 今日の法制度でも、私人による断罪は犯罪行為です。仮に、所定の司法機関に告発したとしても、客観的な裁定が有罪と決まるまでは、容疑者はあくまで推定無罪の境地に置かれるべきです。

 本書は、公序良俗に反する暴論で、無実の良民を断罪しています。

◯不当な断罪
 著者の両島断罪は、偏見と妄想に基づく不法な糾弾であり有罪です。

 後世に生きるものは、先入観で過去の人々を告発、裁断するのでなく、弁護の声にも耳を傾け、告発の妥当性を徹底的に検証すべきです。

 現代の著者にとって、古代史書の記事は、地の果ての土煙ほどのめざましさもないでしょうが、一人一人の古代人は一人の人間なのです。

                                以上

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