今日の躓き石 毎日新聞将棋記事に漂う「リベンジ」汚染の一端
2020/07/29
今回の題材は、同一記者による二件の記事であり、今や一般向けニュースで報道される「時の人」 将棋界の新鋭、新棋聖の卓抜した技量とそれを支える不断の努力を称えるものと思う。それ自体は、納得のいくものであり、広く取材し、深く思索を極めた物として、賞賛に値するものである。
毎日新聞大阪朝刊14版 「大阪」面 盤上の風景 藤井聡太新棋聖 2020/07/27付
毎日新聞大阪朝刊14版 「オピニオン」面 記者の目 [最年少でタイトル 藤井棋聖] 2020/07/29付
正直な所、当記事担当記者の言葉遣いは、全体としてまことに順当であるが、困ったことに、この場でどうしても指摘せざるを得ない難点が、両記事に登場している。ここで指摘するのは、一個の「ほころび」に過ぎないのだが、その一個の「ほころび」がまことに深刻な物であり、広く害を蔓延させる可能性が無視できないので、公開の場で指摘せざるを得ない。
丁寧に読めばわかるように、二件共に「カタカナ語」の起用は、むしろ禁欲的に見えるほど控え目である。そして、使われている数語にしても、現代の日本語として定着しているものであり、安易に新語に流されない記者の品格を偲ばせる。
その見地で言うなら、ここで使われている「リベンジ」は、近年蔓延している「平成の怪物流」の「乳臭い」誤用でなく、英語準拠のrevenge、「復讐」として使われていて、それ自体は、適正な流用であって文句を言う筋合いはない。
しかし、真摯な意図で書かれていても、記事の文脈に当てはめると、将棋棋聖戦で、挑戦者に追い込まれた(前)棋聖が「リベンジ」、仕返しをたくらんだとの記事は、大変不穏当である。問題は、重大な宗教的な意義を見逃していることにある。
いや、当記事筆者は、ご当人と言葉を交わしたことはないのだが、とても、将棋の場に、個人的な復讐心、さらには、血の天誅を持ち込む意図などないはずである。また、氏の宗教信条も知らない。
そもそも、堂々たるトップ棋士が、いかに手強い相手であっても、負けたからその分、あるいは、「倍返し」で仕返しするという、子供じみた闘争心で動いたとは見えないのである。かりに、本人がそう発言したとしても、当人の名誉のために報道を控えるべきではないだろうか。記事の主題である新棋聖は、別に「悪玉」、「斬られ役」、「ボスキャラ」は、必要としていないはずである。
別記事で指摘したように、目下掲載の毎日新聞名人戦観戦記では、両対局者の人格を貶める「暴言」が飛び交って、大いに歎いているのだが、担当記者には、この記事で、新進気鋭の若者を称揚するために、先輩を貶す意図はないはずである。十分定着しているはずの「リベンジ」の悪辣さについて、勘違いしているとしか思えないのである。このままでは、貴重なトップ棋士の顔に泥を塗りつけていることになるのであるが、多分、ここまで気づかなかった以上、今後とも、自力で気づくことはないと思うので、敢えて、耳に突き刺さる記事を書いたのである。と言っても、害意はない。
いや、今回は、大阪版と全国版の釣り合いということで、晴れ舞台に二件相次いだのだろうが、全体として、よく推敲された堂々たる紹介記事に見えるのである。して見ると、不用意な「リベンジ」は、何とも、何とも、もったいないのである。
「リベンジ」蔓延を食い止めるため、従来は、当該記事担当記者の記者倫理を問う手厳しい物であったが、それは、「半人前」の記者が、小耳に挟んだ流行り言葉を無造作に書き散らす軽率さを攻撃して、教訓として貰いたい趣旨で、ことさら手厳しくまとめていったものであり、今回の二記事が、その同列でないことは、以上の説明からも、おわかり戴けたものと思う。
それにしても、天下の公器である毎日新聞には、各記者の筆の暴走を是正する校閲機能はないのだろうか。
それとも、このような市井の私人の意見など、意に介さないのだろうか。耳を貸そうか貸すまいが、長年の定期購読者には、一言提議する権利はあると思うのである。
記者の周囲には、この忌まわしい言葉の使用を控えるように苦言を呈してくれる「友人」という名の「厳師」は、いないのだろうか。一度紙面に載って世に広がれば、未来を担う子供達を含め、悪習に倣う人は数多いのである。後世に、悪習を継承しないように、と思うだけである。
以上
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