新・私の本棚 季刊「邪馬台国」 第138号 巻頭言 紹介
「記紀の行間を読む」 梓書院 2030年7月刊
私の見立て ★★★★☆ 良心的で開明的 2020/07/01記
◯はじめに
本号巻頭言から、編集子の国内史料視点偏重が読み取れます。いや、別に非難しているわけではなく、業界大勢に無批判に同じているように感じ取れるという指摘です。
*国書の成り行き
隋書に記述のあると称する「厩戸皇子」の国書なる先入観は、別に個人的な意見でないので別に置くとして、隋帝が問題にしたのは、「天子」が「天子」に「国書」を呈したことで、日の出や日没の関係ではないと思われます。
中国の世界観で、西界は「西王母」の住み賜う西域ですから、日没に近いというのは侮辱になりません。むしろ、当時の帝都長安は、東都洛陽に比べて、西域の玄関に大変近いのです。
*暴言の大罪 「天に二日無し」
大罪は、「天に二日無し」(礼記)なる至言に照らしてです。
隋帝天子に対して夷蕃が天子を名乗るのは、滅ぼして取って代わろうとの不遜な挑戦であり大逆の極みです。鴻廬寺卿は、身命を賭し、家族に決別して、至上の君に取り次いだのでしょうか。死して後已むという硬骨の志です。
*暴虎に挑む無謀さ
それにしても、中国古典に多少の教養があれば、このように、目前の暴虎に挑み討伐を誘う、無謀で挑戦的な檄は、遠からず亡国を招くから、絶対飛ばさないのです。西域夷蛮の国の例で言うと、使者の首を刎ねるのなら、まだしも、生存の可能性があるのです。
*夜郎自大の伝統
編集子は、国内史料視点であり、中国教養に欠けるようです。個人的な批判ではなく、上古以来の「夜郎自大」症候群なる宿痾の露呈と見てとっているのです。
夜郎国は、中国南蛮王国であり、自身の天下を「世界」と思っていたから、外界の漢の巨大さを知らず実感を吐露したのです。とは言え、漢都遣使後は、蟻が泰山に挑む無謀さを悟って、口を慎んだということです。
つまり、問わず語りで、かの国は、魏晋以来の遣使伝統の圏外であったと示しているのです。後年、此の国は、大隋、大唐の偉大さを悟って、不遜な言辞を詫びたとして、それで取り返しはついたのでしょうか。
*史書編纂への至言~高度な見解
先だって、編集子は、史書編纂は、必然的に編集の筆が要求され、その筆で編集の度量が試されるとの至言を述べています。無加工、無造作の佚文羅列では、読むに堪えない紙屑ができても、典拠となる史書はできないのです。
その筆を「潤色、加筆」などと矮小化する乱臣賊子の批判は、差し障りがあるので、ママ引用して愚劣さを示唆し、非難は抑制、割愛していると見えます。
当時、「公文書」など無いから「改竄」も無いのが自明と言う事で、時代錯誤の現代野次馬放言はものともせず、古代人の至上の史書編集事業を称揚していますから、現代の非難、つまり、数は多いし、騒々しい、的外れな雑音は、全て空を切っていると見るのです。
以上、当方は、別に業界の世間づきあいを気にせず勝手に代弁します。
*正史解釈に不可欠な基礎教養
とかく無視されますが、中国正史は中国人の古典的な世界観で書かれていると悟って、座り直して文献の丁寧な解読に勤しむべきであり、早々に「夜郎自大」解釈の悪癖は払拭すべきでしょう。郷に入りては郷に従うものです。
編集子の筆ではありませんが、後出の古代史論で「日中」「外交」などと、時代錯誤、場違いの暴言を書き立てているのを見ると、付ける薬はないのかと歎くものです。
*まとめ
最後に確認すると、以上、編集子の筆には、概ね賛同しています。
そういえば、タイトルは、「記紀の行間を読む」ですから、国内史料偏重を「夜郎自大」と誹るのは、ちょっと的外れに思われるかも知れませんが、「行間」の向こうは、太平洋ならぬ中国正史の青海原ですから、長々と書き綴った問題点指摘には、言った甲斐があるのではないかと感じます。
以上
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