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2020年8月 3日 (月)

倭人伝随想 再考 倭人伝行程記事の前提とすべき考察

                                                  2020/08/03 (脱字訂正 2020/08/04
〇はじめに
 本記事は、当議論の中級者以上に、従来と異なった視点を供しようとするだけで従来諸説を駆逐する意図ではないので、まずは一読いただきたい。

 なお、談じるのは、景初初期に魏朝鴻廬が最初に申告した事項であり、魏帝は当該申告を欣然裁可し、帯方を指嗾して当該東夷を招請するよう厳命したと思われる。かくて、以降訂正があっても裁可文書は改竄不可能であった。

 概して、当記事は、あくまで思考実験による推定であり、意見有用、議論無用である。

〇倭人伝の足取り
倭人在帯方東南中依山島 (脱字訂正 2020/08/04
 「倭人」談義は別記事に譲り、当記事では、「在帯方東南」云々の解釈を審議する。
 魏書は、当時の洛陽官人、「中国人」を読者と想定し、読者は私蔵書から、「帯方」が遼東郡の陸続きの南方、当然陸地と知っていたことになる。「倭人伝」は、魏書巻末の些事として実務家の奏した文書であり、読解に要求される教養は、それに相応したものである。

*「海中」の意義
 「倭人」は、帯方東南の「海中」だが、塩っぱくて飲めない海水(salt water)の深みには住めず「山島」は「山」の島と知る。ただし、中国人の地理知識で「山島」の実例は、南海の「海南島」だけだが、この島は沖合で、四周は「海」と知れていた。

 「海中」用例に漢書西域伝、魏略西戎伝の條支国がある。其国(国王治所)は、西海「裏海」(塩水)西岸の岬だが、「海中」とされる。三方臨海だが、一方陸道で、食糧、飲料水に窮しない。

*初期地理観の推定
 倭人伝の「海中」山島の地理を『帯方東南の海に「九州島」(倭)があり其の周囲は「海洋」なので海中』と見立てようにも、倭の南岸が見えない。

 とすると、「朝鮮半島」が引き続き南下し、そこから大海に向け東方に突きだした岬が山島との理解(誤解)かもわからない
 中国は、「海洋国家」でなく巨大陸封国家で、所詮井の中の蛙である。して見ると、極東に過ぎない帯方郡東南は、漠たる関心・理解しか得られない。
 そして、韓伝が云う「南は倭に接する」は、関心・理解のさらなる最果てであり、よくわからない「海」の入り組んだ地理は、無駄に面倒くさいから、あっさり陸続き解釈としたかも知れない。
 史書は、寡黙極まりないから、わからないことは、わからない。

*改竄不可能な初見記事
 敢えて補うと、当記事以降、魏、西晋代、交信と派遣者報告により地理認識は是正されても、皇帝裁可公文書は不可侵である。洛陽政権の史官は後漢伝統に縛られ、後世知識による史料改竄はできなかったと見る。そして、魏書編纂に際して、史官が、勝手に公文書を改竄することは不可能である。
 晋書などで窺えるように、少なくとも西晋代まで、洛陽官界には、活発な論客/批評家が存在したから、史官は行いを正さねばならなかったのである。

*あり得ない迂回路
 因みに、俗説の非が強く唱えられる代表例である「帯方郡・狗邪韓国行程」(郡狗)だが、当初、半島地続きの(誤)認識なら、大迂回の沿岸行は、全く想定外となる。郡狗に続く渡海三度の狗邪から末羅行程は、後日の補筆だろうが、国内官道の渡河同様に、大海の洲島経由の渡船であり、末羅を岬と見た上で、以下「陸行」としたのではないかと推定される。
 ついでながら、さらに続く末羅以降の行程記事は、一段と後世であり、明帝逝去で景初が終わり「初見記事」との整合は乏しくなったが、それでも破綻させなかったのは史官の筆の冴えと思われるが、当記事欄外であるので筆を止める。

 狗邪に至る経路の西方は、官道に関係無いので、倭人伝は触れていないが、そうでなくても、急務に供すべき官道が、お天気まかせの海上経路の筈がないのは、自明である。中国官制に無い無法な行程は、皇帝に報告されないのではなから論外である。

 再説すると、三十巻に亘る大著魏書講読の掉尾を締める倭人伝の一東夷の道里に些事を詰め込んで、読者の精力を浪費してはならないのである。

〇結語
 以上の論議は、冒頭のほんの僅かな字数の掘下げであるが、後世人が、早計な浅慮に駆り立てられて「倭人伝問題」の文章読解、題意解読を最初から取り違えると、倭人伝論の進路を大きく撓めるので、ことさらくどくどと述べたものである。

 「問題」は、出題者が、想定される読者の解答欲を刺激する知的「解」を用意した上で示すものであり、文意を順当に読み取れば、さほど困難な解とはならないはずである。

 二千年余(1800年程度)の以前同時代最高の知識人が設定し、同時代知識人読者が非を鳴らしていないのに、現代読者が、古典的な問題を解けないのは、大抵、出題者が責められるべきでなく、読者の非力、不勉強、心得違いの結果である。

 何人寄って出題文の不備を非難しようが、二千年以前の出題者には、一切聞こえないのであるが。

                                以上

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コメント

NNさん
 ご指摘の通り、書いたつもりで書き漏らした脱字のようです。「追って」修正の上、下記主旨を補足説明しますので、その間ご容赦ください。
 当記事の文意は、魏明帝の景初初頭に帯方郡が洛陽直轄に回収されるまで、公孫氏が「荒地」同然とみて放置していた韓地のさらに東南の「郡から万二千里の彼方の最果ての地」と見ていて、韓南部から倭にかけての地理は手つかずであったため、乗り込んだ帯方郡新太守が東夷状勢を洛陽にご注進した報告では、韓の南に西方のカスピ海のような「大海」(西域伝で言う内陸塩水湖)があって、その数千里西方は韓から倭まで地続きとの「絵」を書き送ったかも知れないのです。
 その際、行程の三回の渡海は、大海の一部である小海(一海、翰海)を渡り、最後に上陸し陸行に移る末羅は、概念的には大海中に突出した半島、岬であって、西域伝で言う海中であり..というような「地図」を書こうとしたのですが、一回分の記事に収めるために色々そぎ落としたりして力尽き、肝心の引用句に脱字があるのを見落としたようです。
 今思うと、帯方人が西域伝を読んでいたとも思えないので、(実際??は)洛陽の教養人が帯方郡の報告を整形して、西域伝の大海像、条支国像を貼り付けたかとも思えるのです。それにつけても、それぞれの時点で、それぞれの持ち場で、それぞれの偉才が、それぞれ最善を尽くしたはずなのに、中々筋が通らないのに難儀していますが、「わからないことはわからない」のです。
 今回の記事は、倭人伝解釈に、初期段階で確かめるべき事に考察漏れが多いので、仕方なく下手な警鐘を鳴らしただけですから、その主旨で理解いただきたいものです。
以上
ToYourDay 2020/08/04
>
>「倭人在帯方東南海中」は誤記で「山島倭人在帶方東南大海之中」とあり「大海」ですね。
> 
>この違いが古代中国漢文では大きな意味があることが理解されていないのが残念ですね。

「倭人在帯方東南海中」は誤記で「山島倭人在帶方東南大海之中」とあり「大海」ですね。
 
この違いが古代中国漢文では大きな意味があることが理解されていないのが残念ですね。

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