新・私の本棚 松尾 光 「現代語訳 魏志倭人伝」 参 通詞論 2/2
新人物文庫 .KADOKAWA/中経出版 Kindle版
私の見立て ★☆☆☆☆ 誤解と認識不足の露呈 2020/08/05
〇文書論議
文書交換は高度な筆談であるから、ここに書かれているようなお粗末な手配りはあり得ない。まして、国家の大事に無教養な野良通詞を雇うのは、失笑ものである。鞍作福利は中国古典に精通していたと同時に、その高度な概念をヤマト言葉に噛み砕いていたものと思われる。中国人と会話するためには、鞍作氏が創造したヤマト言葉によって思考できる人材が求められたのである。何しろ、ヤマトの側には、後世律令で確立するような国家規律の言葉はなかったから、その大半は、漢語で埋められていたはずである。
〇漢字現地化禁制
因みに、漢字を自国風に発音して文章、会話を構築することは、文明の根幹に反するので禁じられていたのである。かな文字は、中国との交通が疎遠だったため見過ごされたのであり、至近の百済と新羅は、中国の規律に厳格に拘束されていたので、漢語の現地化などできなかったのである。
今日でも、政治、経済などの高度な談義で、漢語や漢語風現代造語をヤマト言葉に置き換えたら、意思疎通できないのである。
〇児戯敷衍の愚
ちなみに、「伝言ゲーム」なる、低級で陳腐な比喩が登場するが、事は、子供の遊び事ではないのである。正確な意思伝達の保証には、対面筆談による文意確認であり、つまり、都度伝達内容を検証し是正するのである。
このような、児戯に属する、低劣な比喩を持ち出して、古代人の叡知を見くびるのは、自身の無知を高言しているものである。
〇外世界の文化、文明
史記大宛伝、漢書西域伝の漢武帝期の西域踏査記録で知られているが、西域に威勢を誇った安息国は、皮革に横書きで文字を書き付ける高度な文書制度を有し、数千里に広がる広大な国内に宿駅を備えた街道を隈無く整備運用し、常時、官制文書使を往来させ、漢使の東部国境到来時は、西境王都に急報し、想定日数内に国王から応対許可の指示が届いたと報告されている。
縦書き漢字文書ではないが、巨大国家が、文書行政で秩序正しく運営されていたと知られている。其国は、銀銅貨が有り、計算集計技術が確立し、「法と秩序」も健在で、前世、女性一人で安全に長旅できたとされている。ただし、中原外情報であり、中国に皮革紙や横書筆記が伝わったわけではない。
〇まとめ
文化、文明は、文字の上に構築される。単なる民族風習ではない。
〇魚豢の嘆き
魏書第三十巻巻末に裴松之が補追した魏略「西戎伝」全文で魚豢の著作が伝えられているが、巻末で、魚豢のような知識人でも知りうる範囲の限られた池の鯉で外界を知り得ないと達観したが、現代人は知識を得るのに池を出る必要はないから、その場で認識を広め、かつ、深めて欲しいものである。
〇教訓
古代史談義を現代人の言葉と概念で進めるのは無謀である。同時代概念を摂取し、内なる言葉と概念を整えた上で古代史料の言葉を取り込むべきである。氏の解説は、言葉と概念の貧困により意図不明の絵解きに終わっている。
更なる境地に至るためには、情報源の「貧困」を理解いただいた上で、止まる木を選んで研鑽いただきたいものである。
以上
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