新・私の本棚 片岡 宏二 「続・邪馬台国論争の新視点」 2/3
「倭人伝が語る九州説」 雄山閣 2019/12刊
私の見立て ★★★☆☆ 折角の論考の基礎が乱調で幻滅 2020/08/02
*景初二年説の精査
では、早々に棄却された景初二年説に成立の余地はないのだろうか。
ここに筑摩本の難点が露呈する。遼東征伐に付随して半島西岸に「密かに」渡海し、両郡を「回収」したと書いている。戦後処理と見せているが、それなら「密か」に行う必要はない。事前に郡太守を洛陽官人にすげ替え、無血で両郡平定したと見るのが合理的である。平定は交通困難な厳冬期であったため、遼東は両郡喪失に気づかなかったかと思われる。
*疾駆参上の背景
帯方郡を収めた魏朝は、郡の東夷台帳で最遠の「倭人」に早速の参上を命じたと見る。
倭人は、参上すれば絶大な功として皇帝奏上すると発信されて好機を逃さず即応したと見える。郡命で、途中の関所は全て無事通過し、官道宿駅は、官費でもてなしたはずである。
以上は、景初遣使なる蕃客への多大な下賜物と皇帝詔の背景として妥当と見えるのである。
魏は、曹操が再興した法治国家であるから、訳もなく厚遇しないのである。
*「倭人伝」語りの「倭人伝」知らず
俗説の倭人伝誤記説は、なべて言うと「ならやまと」を救済の牽強付会で、無批判に追従、原文改竄することはできない。厳密な史料批判が必要である。
片岡氏には、倭人伝誤記説に従う原文改訂を採用するに際しては、俗説に無批判に追従したり、論者の人数を数えて「大に事える」したりするのでなく、論理的な批判を加えた上で納得できる議論を戴きたいものである。
氏の本領たる考古学考察は、十分資料批判を経ていると信を置くが、倭人伝文章解釈が、非科学的では「曲解」の産物と見ざるを得ない。
*禁断の性格批判
「賢い鳥は止まる樹を選ぶ」は古人の説くところである。片岡氏ほど道理を弁えた方が「倭人伝が語る」と銘打ちつつ、倭人伝ならぬ既存の俗説を止まり樹としているのは勿体ない。また、参考資料に、「九州説」二大論客、安本美典、古田武彦両氏著作が見当たらないのも疑問である。
本書に具現化された「性格」が、歴史科学者の資質に欠けると見られるのは、氏が、学会人、組織人として、筆を撓めて著述しているからだろう。古代史学業界では、考古学者は、文書解釈で専門家に追従するのが不文律と感じる。氏も、やむなく保身しているのだろうか。学術的な見地からは、俗説迎合で素人批判に耐えない著作は、業績として相応しくないとみる。
念を入れると、氏の考古学考察を批判しているのではない。国内古代史の視点から倭人伝に造作を加えている「現代語訳」に基礎を置いている不都合を指摘しているのである。
*「近畿」綺譚 ~「中和」提唱
「畿内」に異議を示す一方、「近畿」を受け入れるのも筋の通らない話である。「近畿」は「王幾」から発し、「畿内」とちょぼちょぼである。まして、「近畿」の「イメージ」は多様である。奈良盆地は、ほぼ一貫してヤマトと呼ばれたから「ならやまと」で十分ではないか。それで範囲が合わないのであれば、南北記法で言う「中和」が一案である。
いや、「古代史学界」が、確固たる定見を示さないのが問題なのである。
未完
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