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2020年8月 2日 (日)

新・私の本棚 片岡 宏二 「続・邪馬台国論争の新視点」 3/3

 「倭人伝が語る九州説」   雄山閣 2019/12刊

 私の見立て ★★★☆☆ 折角の論考の基礎が乱調で幻滅 2020/08/02

*世襲・禅譲と革命
 本書の由来を物語るのは、このけったいな用語談義である。
 氏は、正史の意義を理解してないようである。帝都長安を脱出し流亡の皇帝が、曹操の庇護のもと面目を回復し、後に継嗣曹丕に天子を譲ったのは妥当な権力継承である。氏は曲がりくねった消化不良の言い回しを採用しているが、堂々たる国事で留保は必要ない。因みに、漢を再興した光武帝劉秀は、王莽の禅譲を受けたものではない。(いや、書き漏らしたが、王莽は、反乱軍赤眉に打倒されたのであって、劉秀は、王莽亡き後の混沌を制し天命を得たから、「正しい形式を経て漢の皇帝から天子を譲られ正統な皇帝となった王莽を不法に打倒したのではない」と見られるのではないか。いや、このあたりは素人には判断が難しい)

 司馬晋が「魏からの権力奪取を正当化」したと言うが、魏書編纂の姑息な正当化は不要である。衰弱した魏帝が、最後の国事行為として新帝に譲位したことは、天下公知、当然だったのである。

 無造作に提示した「革命」は、状況も実態も異なる後世概念であり、中国古代史を語る際には場違いである。全くのところ、時代錯誤である。

 して見ると、片岡氏には、古代史料読解が任に余ることは理解できる。

*倭人伝解釈の常道
 倭人伝は、古代中国人が古代中国人のために書いた著作であるから、そのように読解すべきだとか、倭人伝は魏書の一部であるから魏書全体を見た上で読解すべきだとか、無理難題の教訓が見られるが、氏のような見当違いの意見の横行が目に余ったと思われる真意を察するべきである。

 翻訳は、遥かな山々を居間のこたつに引き寄せるが、何らかの手法で「情報」の全てを取り込んでも、それは、現地そのものではない。

*傀儡という無様な比喩
 二度登場する「傀儡」は、業界通念だろうが廃語をお勧めする。時代錯誤を棄てれば実相が、一段と正確に読み取れるはずである。

 献帝を曹操の傀儡と言うが、氏は傀儡を操れるのだろうか。人形浄瑠璃、糸操り人形芝居など、とても、人形遣いの意のままと思えない。誰が言い始め蔓延したか、できの悪い比喩である。当時、形式に絶大な意義があり、天子は天子で、実権論は、関係者の隠語だったのである。曹操の理念は、成文法をもって帝国を律するもので、「名のみの皇帝」と言うはずがない。

*君主裁可の形
 平安時代の関白では、臣下が上奏した議案は、全て関白があずかって稟否し天皇は追認したという。曹操も同様ではないか。皇帝は、曹操の決定を皇帝裁可し、はんこ押しであっても、芸術的な操り人形になったのではないか。どの道、大抵、皇帝は、上申事案を、添付書通りに裁可、つまり、「そうせよ」と決したのである。皇弟専政と一口で言っても、実相は多様である。

 今日の官庁、企業で、大抵、起案した者の書いた通りに、決裁権限者の裁可、稟議決裁が下りるからといって、決裁者は傀儡ではない。

*陳腐と伝統
 陳腐な比喩は唱えた人間の安直さと追従者の更なる安直さを偲ばせるものである。場違いな比喩で、自身の品格を落とさないようにしたいものである。

 原点に還ると、古代史料の解読は、その史料の著者、読者の属する言語、倫理に即して解釈するしかないのであり、当時存在しなかった言語、倫理を唱えるのは、徒労なのである。

 倭人伝から始める総合的な論考は、考古学、文献史学の両要件を満たしたものとすべきである。

                                以上

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