新・私の本棚 古田武彦 「倭人伝を徹底して読む」 里程・戸数論 3/5
大塚書籍 1987年11月 ミネルヴァ書房 2010年12月 2020/10/30
私の見立て ★★★★★ 必読書 批判するなら、まず読むべし
〇「誤差」の意義
氏の慎重な対応にあっても、素性が不確かな数値に不確かな計算を施した結果は、「誤差」では論じられないのです。世間には、不確かな計算結果を、多桁表示する豪傑もいますが、氏は、妥当な対応を心がけているのですが。
もっとも、六倍に隔絶した「里」を問う際に誤差論は、実は、些末です。
〇図上推計の不合理
近来、氏の考察と同様に壱岐島の現代地図から、方四百里に基づく推定を行った論者は、一里五十五㍍と見ています。先哲の手法を無断模倣した提言を新説と説くのは、非科学的、無礼ですが、かくなる暴論が世に出るのは、氏の壱岐島考証が、学術的に不安定だった事を物語っているのです。
〇「方里」解釈
それはさておき、根本的で「深い」のは、韓地、壱岐島「方里」解釈です。
氏は、まず、韓地を正方形と解し、後に平行四辺形と訂正しましたが、これは、氏の早計です。これは、誰も陥る陥穽で、それに気づくかどうかです。
〇面積表記の「方田」
漢代算術教科書「九章算術」に従えば、「方」は、「面積」表現です。まずは、正方形に始まり、長方形、台形、果ては、円形などの耕地の各部寸法を測量して面積を計算する計算手順、面積公式を示しています。例えば、台形であれば、周知の通り、長辺と短辺を足して二で割り高さをかけるのです。
〇国力指標としての「方里」
伝統的に教育されている「方」は、正方形、四辺形に限定されるものでなく、不規則な外形の領域も、収穫高に関係する「面積」(畝や頃)で表すのです。つまり、肝心なのは耕地面積であり、全領域の耕地面積を足し合わせたものであり、領域の農業生産力、国力を直裁に表現しています。
〇「方里」深読み~不確かな論拠の棄却
「方里」は難易度が高く、計数が結果を左右して、大変不安定です。
壱岐島方四百里は一辺一里の方里四百個を縦横二十個並べます。山地、海岸部を除く中核部が五㌔㍍四方なら一辺二十里、一里二百五十㍍となります。
さて、記事には、島に課税対象「良田」が少ないとあるので、中核部たる領地の十分の一、十㌫を良田として台帳計上すると、耕作地は、千五百㍍四方、一辺二十里となり一里七十五㍍、つまり、倭人伝里に誘導できます。
以上の通り、「方里」は、領域見立てが不確かで、更に、道里とは別系統で別種の不確かさを有する資料であり、途中の自乗計算で誤差が大きくなるので、一段と不確かであり、結局、氏の里程論の論拠には、不適切とみます。
「方里」は、領域外形を示すものではないから、勝手に等辺四角形を想定して幾何学的にその一辺を里数計算に適用するのは本来、不合理なのです。
言い換えると、面積単位である「方里」を「道のり」の「里」、「道里」に起用するのは誤りです。いや、史学会なべて同様なのですが。
*方里の確認
因みに、韓地諸国は、概算とは言え戸数が示されていますから、既に戸籍が導入されていて、各韓国から帯方郡に「方里」が報告され、郡が、韓地方里を合算したものと見ます。韓地の外形を推定するには、耕作地占有率を想定することになり、その際、別系列の戸籍の数字を利用するので、いくら工夫しても、漠たる想定にしかならないのです。
強大な高句麗が「方二千里」と韓地の半分に過ぎないのは、所領が高山深谷が多く、農業不適の土地が大半と書かれているためであり、強力な騎馬軍団を擁していた高句麗には、広大な牧草地や馬場があり、その実質的な領域は、韓地に劣らなかったと見ますが、農地で国力を評価する中原政権には、そのような耕作不適な土地は、価値のある土地でなく、一切国力に貢献しないと見ていたのです。
未完
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