« 倭人伝道里談義 号外 倭人伝道里行程記事の趣旨確認    1/1 | トップページ | 新・私の本棚 サイト記事 KATS.I 「水行20日、水行10日陸行1月の呪縛」公開コメント 追 1/1 »

2020年10月21日 (水)

新・私の本棚 サイト記事 KATS.I 「水行20日、水行10日陸行1月の呪縛」公開コメント1/1

62.扶桑國(その7)

 私の見立て ★★★★☆ 意欲的な史料批判の失敗  2020/10/21

○非商用ブログサイト批判の弁
 同ブログサイト筆者は、論述にあたり、中国史料の原文を引用した上で、倭人伝道里記事の意義を解釈し、滔々と論考を公開し続けているので、読者コメントを希望しているものと解して、氏の課題取組みの姿勢に大いに賛同するものの、ここに、氏の一連の論考の基礎部分の不合理を指摘する趣旨で、当ブログ筆者の意見を公開コメントします。

 批判は非難でなく、率直、誠実な批判は耳に痛いのもご承知と思うので、よろしく、ご理解の上、審議戴きたい。

○総評
 蛮夷道里を「通典」邊防記事から推定することに重大な異議を提示します。

 ただし、異議はあくまで異議であり、「論旨を理解いただいた上で」反論なり、無視なり、お好きなようにと言う事です。「通典」紹介は略して論議します。

*非史書の取扱
 邊防を含む「通典」は、史記、漢書以来の正史の蛮夷(客)記録を、唐代読者、皇帝以下の高官のために集大成したものであり、全て史記、漢書以来の史書引用、総括であって、原資料の直接参照はないので、参照史料として不適当と判断されます。氏は、時に、推定原史料で確認されていますが、その際、原史料の特定と史料解釈の正確さへの「史料批判」が欠けています。

*史料棄却の弁
 次の点から、当史料は、倭人伝里制解釈に不適当として史料棄却しました。
⒈ 後続史料によって、先行史料を批判するのは、常に不合理です。
 氏は、中国史上一貫した里制は記録されてないとの前提のようですから、倭人伝の六世紀後の唐代史料は、倭人伝考証に全く不適です。これだけで、決定的最終判断ですが、以下で、本件主張が例外的に特採できないか確認します。

⒉ 個々の通典記事の評価に際しては、出典を特定すべきですが、出典不詳で検証ができません。
 氏は、質問する相手(依拠史料)を間違えています。

⒊ 魏志にない西域里程を東夷里程に適用するのは、端から不合理です。
 西域は歴史上変動が激しく、当記事(正史記事も)から、西域の地名比定は不確か、基準中国地点特定も不確か(原記事は読解困難)、東夷・倭人伝地名比定が不確かと、全て「不確か」ですから、当記事から現時点の各地点間の物理的距離を知ることは大変困難(事実上不可能)です。

 特に、倭人伝独特の道里行程記事の、道のり「里」も面積「方里」も、後世の東夷の素人には、読解困難、つまり、端的な利用は不可能です。
 特に、魏志に西域記事がないので、陳寿の語法を知ることができません。

 総合して、当史料は、倭人伝「里」の推定に無効とわかります。

 根拠の無い思い付きで一里55㍍程度と推定予断したのを根拠に各国を比定するのは無謀です。
 不確かなデータはそれに適した取扱いが必要です。

○史料、先行論議無視の不満
 倭人伝里程論では常識ですが、古代中国では、出土の「尺」を規準とした一歩六尺。一里三百歩とした「普通里」(千八百尺。四百~五百㍍)が周代創始の大原則で、「倭人伝独自里」説は、よほど、主張の根拠を固めねばなりません。

 中国史書は、継続して書き継がれているので、勝手な思い付きを言い立てる前に、先賢諸氏の論考も参照した上で、全体を見て論考すべきです。「先賢諸氏の論考」と言うのは、十把一絡げ、一山いくらという趣旨で無く、仮に五百の論考があれば、五百件のそれぞれが、論者の精魂こめた思索の結果を示しているので、ちゃんと理解しようと努力した上で、それぞれの論考の筋道を辿って異議を呈すべきであり、一連の記事の冒頭に書かれているような雑駁で深く読解していない意見は、失当だと思うからです。

 今し方提示したように、倭人伝里程論の展開の際には、必ず踏みしめなければならない事項が幾つかあるのですが、氏の快速論理は、そのような基本要件を等閑(なおざり)にしているようで心配しているのです。

 なお、当ブログ筆者は、諸兄の論考をできるだけ丁寧に読み解いて、筋の通らない点を率直に批判し続け、その上で形成した自身の論法は、別記事で示しています。
                               以上

« 倭人伝道里談義 号外 倭人伝道里行程記事の趣旨確認    1/1 | トップページ | 新・私の本棚 サイト記事 KATS.I 「水行20日、水行10日陸行1月の呪縛」公開コメント 追 1/1 »

倭人伝随想」カテゴリの記事

新・私の本棚」カテゴリの記事

倭人伝道里行程について」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 倭人伝道里談義 号外 倭人伝道里行程記事の趣旨確認    1/1 | トップページ | 新・私の本棚 サイト記事 KATS.I 「水行20日、水行10日陸行1月の呪縛」公開コメント 追 1/1 »

お気に入ったらブログランキングに投票してください


2024年10月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

カテゴリー

  • YouTube賞賛と批判
    いつもお世話になっているYouTubeの馬鹿馬鹿しい、間違った著作権管理に関するものです。
  • ファンタジー
    思いつきの仮説です。いかなる効用を保証するものでもありません。
  • フィクション
    思いつきの創作です。論考ではありませんが、「ウソ」ではありません。
  • 今日の躓き石
    権威あるメディアの不適切な言葉遣いを,きつくたしなめるものです。独善の「リベンジ」断固撲滅運動展開中。
  • 倭人伝の散歩道 2017
    途中経過です
  • 倭人伝の散歩道稿
    「魏志倭人伝」に関する覚え書きです。
  • 倭人伝新考察
    第二グループです
  • 倭人伝道里行程について
    「魏志倭人伝」の郡から倭までの道里と行程について考えています
  • 倭人伝随想
    倭人伝に関する随想のまとめ書きです。
  • 動画撮影記
    動画撮影の裏話です。(希少)
  • 古賀達也の洛中洛外日記
    古田史学の会事務局長古賀達也氏のブログ記事に関する寸評です
  • 名付けの話
    ネーミングに関係する話です。(希少)
  • 囲碁の世界
    囲碁の世界に関わる話題です。(希少)
  • 季刊 邪馬台国
    四十年を越えて着実に刊行を続けている「日本列島」古代史専門の史学誌です。
  • 将棋雑談
    将棋の世界に関わる話題です。
  • 後漢書批判
    不朽の名著 范曄「後漢書」の批判という無謀な試みです。
  • 新・私の本棚
    私の本棚の新展開です。主として、商用出版された『書籍』書評ですが、サイト記事の批評も登場します。
  • 歴博談議
    国立歴史民俗博物館(通称:歴博)は歴史学・考古学・民俗学研究機関ですが、「魏志倭人伝」関連広報活動(テレビ番組)に限定しています。
  • 歴史人物談義
    主として古代史談義です。
  • 毎日新聞 歴史記事批判
    毎日新聞夕刊の歴史記事の不都合を批判したものです。「歴史の鍵穴」「今どきの歴史」の連載が大半
  • 百済祢軍墓誌談義
    百済祢軍墓誌に関する記事です
  • 私の本棚
    主として古代史に関する書籍・雑誌記事・テレビ番組の個人的な読後感想です。
  • 纒向学研究センター
    纒向学研究センターを「推し」ている産経新聞報道が大半です
  • 西域伝の新展開
    正史西域伝解釈での誤解を是正するものです。恐らく、世界初の丁寧な解釈です。
  • 邪馬台国・奇跡の解法
    サイト記事 『伊作 「邪馬台国・奇跡の解法」』を紹介するものです
  • 陳寿小論 2022
  • 隋書俀国伝談義
    隋代の遣使記事について考察します
無料ブログはココログ