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2020年11月 5日 (木)

新・私の本棚 七田忠昭 吉野ヶ里遺跡と邪馬台国 季刊「邪馬台国」第138号 改 3/3

梓書院 2030年7月刊 吉野ヶ里遺跡指定30周年記念シンポジウム 2020/07/05記
「邪馬台国の今 ~弥生時代の研究のFrontline~

私の見立て ★★★☆☆ 良心的で開明的

*東夷伝語彙の確認
 東夷傳の「国」は、漢の「国」と全く異なるものです。漢は、中央から行政官を派遣して統治させる「郡」以外に「国」を設けましたが、国「王」は皇帝親族限定であり、藩屏、「藩」として、身をもって皇帝を守る盾です。

 蕃「国」は蛮夷をおだてて懐柔するものであり、それは、蕃使を「客」ともてなすのと同様です。漢蕃用語に後年「寧遠」なる概念がありますが、懐柔して叛意を失わせれば国益に繋がるとの主旨を示唆しています。

 現代では、いかなる国も国際的な独立主権を認められれば、外交関係を確立できますが、当時、対等の関係はなく「外交」はなかったのです。

*夜郎自大の戒め
 以上、子供に言い聞かせる指摘をするのは、古代史に於いて、「夜郎自大」的な意識が漂っていて、誇大な自画像を描く傾向が見られるからです。

*外交の幻想~破天荒の新説
 七田氏は、後漢期に、倭に「外交」が存在して漢帝を操ったように書きますが、「外交」錯誤の果てに人身売買妄説では余病は深刻です。漢と取引して、人を売って鏡を買うとは、漢皇帝も倭王も、見くびられたものです。漢は。絶大な権威と厖大な国富を有していて、取るに足りない東夷の蕃王を取引相手として、人鏡交換するとは、とんでもない夢想でしょう。

 氏は、その「外交」の背景として、皇帝が若年で、徳を補うため徳の豊かな東夷を買い求めたと見ていますが、どこで拾ってきた風聞なのか、いい加減な思いつきを言うものです。

 漢帝は、天子であり、私見では動かず、自身が「徳」に欠けると悟れば、臣下に愚策を指示して軽蔑を買うのでなく、むしろ譲位します。

 文字が無く先哲の書を読めない蛮夷、つまり、人間以下の存在から、何を、文化情報として受け取ろうというのか不審です。文字を読めないから、目に先哲の言のない、つまり、先賢の書を一切解しない、端的に言えば人とは言えない蛮夷から、何を学ぼうというのでしょうか。まことに、不可解です。

 まして、そのような蛮夷を、百人どころでない数で押しつけられたら、使い物にならないものをどうしようもないでしょう。何しろ、意思疎通ができないので、用事を言いつけようもなく、行儀を教えることはできないし、使い走りの役に立たないし、力仕事を言いつけても、道具の使い方を知らないし、そのくせ、食べ物は違うし、何たるお荷物かという事です。

 と言うものの、そのようなお荷物を、海山越えて数ヵ月引き回した、倭の者もえらい迷惑です。毎回、お荷物を運ばないと鏡が手に入らないとしたら、飛んだ「エビでタイ」、伊勢エビで鯛焼きを買う体でしょう。何しろ、海峡越えの漕ぎ船は、二十人を超える漕ぎ手で、数人運べるかどうかという輸送能力ですし、一人運ぶのに一人護送要員としたら、総勢、三百人の大部隊になるのですから、何回海峡越えしないといけないのか。もちろん、一人ずつ一人分の食料を食らうのです。お荷物が、逆らいもせず逃亡もせずならともかく、数ヵ月の先に着いたところから帰ってくることはないと知ったら、只事では済まないのです。

 冗談も休み休みにしてほしいものです。

 それにしても、この新説は、どのような文献史料に依拠しているのか根拠不明です。
 氏は、懸命に感情移入していますが、まず、史料批判、時代考証が必要でしょう。なぜ、ここぞとばかり、俗説派にお手の物の国内史料重視/正史軽視の弁舌を振るって、誤記、捏造、改竄、記憶違いを持ち出さないのか不審です。一番簡単なのは、史家の虚言です。三国志の権威によれば、史家は、みんな嘘つきだそうですから、虚構説が一番、周囲に迷惑がかからないのではないでしょうか。

 二千年前で時効とは言え、ご先祖様を、人道の大罪である人身売買で断罪して、何も感じないのでしょうか。

*用語錯誤
 このあたり一貫して、「日本史」感覚で中国史料を解釈していて不具合です。氏の周辺で「夜郎自大」は、陋習として、広く蔓延しているようです。

*「名付けて卑弥呼」
 倭人伝を「名付けて卑弥呼」と読むのは、飛んだ誤解です。当時、実名は親からもらったもので、勝手な改名などあり得ないのです。(大変な親不孝です)一部言うように「卑弥呼」が官名であれば、魏帝に向かって、実名を秘匿して、職名を実名扱いというのが不都合です。
 「日本」に改名、改姓があっても、当時、漢文化の支配下では、とてつもない時代錯誤です。

*「お隠れになった」
 「お隠れになった」とは、痛烈な倭人伝批判であり、要は、「死んじまった」ということです。女王になって以来、人と会見するのが希になったというのを、死んだも同然と決め付けているのだとしたら、大変辛辣です。

*倭人伝解釈の原点確認
 国内史料解釈は、夜郎自大で済むのでしょうが、中国史料を「夜郎自大」、日本語、現代感覚で読み進めるのは、度しがたい勘違いです。

〇まとめ
 批判が続いたように見えるかも知れませんが、批判されているのは、古代史学界全体を覆う忌まわしい風潮であり、七田氏だけのものではないのです。

 氏の講演で最も不出来なのは、史料批判不足/欠如の范曄後漢書倭伝解釈を根拠に、古代史学界の汚点「人身売買」論を蒸し返したことです。厳に戒められるべきでしょう。九州北部の人々は、いつまで、先祖が人身売買したとの汚名を着せられるのでしょうか。古代人を誹(そし)っても、反撃されることはないので、言ったもの勝ちという事でしょうか。

 自明と思いますが、ここに挙げた「国」体論は、傘下の各小国には適用されません。対馬、壱岐の「方里」も、別儀です。

*叱咤激励の弁
 氏は、在野の野次馬ではないので、中国史料の文献解釈の際には、無批判に、国内史料視点の先賢の所説に追従するのでなく、健全な批判精神を失わず、また、根拠の乏しい暴論を踏襲・高言しないようにご注意いただきたいものです。

                                以上

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