倭人伝随想 15 倭人伝道里の話 短里説の終着駅 3/6 再掲
2019/02/27 表現調整 2020/11/10
2 周朝短里(仮説)の評価
曹魏短里に於いて、短里は、周制のものとする仮説が述べられました。
周制短里を秦が普通里に変えた改革が漢に継承されたが、漢の後継を越えて独自境地を求めた曹魏が、秦の改革を解消して周制に復帰したとする見方は、一応筋が通っているため、特に異議を呈されず、そのまま曹魏短里の検証に移っていったように見えます。
しかし、今般、晋書地理志を確認した結果、司馬法に示された周制は短里でなく普通里であった、との見解に至りました。
◇司馬法
晋書地理志、秦漢以来の諸制度の典拠として引用した司馬法は、司馬穰苴によって書かれたとされる兵法書で武経七書の一つですが現存せず、所収部は佚文とみられます。
司馬法には、秦朝が周制由来とした里制に基づく諸公所領などが規定されているため、秦漢制の基礎として晋書地理志に引用されているのです。
*周髀算経に依る短里説
周制短里の論拠として、谷本茂氏による周髀算経の検証により、周代に七十五㍍(程度)の里長が知られていたとされています。
ただし、これは周代の教養人の常識として「短里」が知られていたと云うだけで、国家制度として短里が有効であったと証するものではないように見えます。あるいは、当時の計算法に載りやすいので、特に設定された可能性もあります。つまり、周朝短里制の根拠とはならないのです。
少なくとも、俗に『周礼』とされる儀礼体系の中に、短里制が組み込まれていたと云う証拠はありません。むしろ、周里制は、普通里であり、「普通」の名にふさわしく、明記しなくても当然適用されていたのです。
*里制不変説
以上を合わせて考えると、以下のように思量します。
周朝国家制度として短里が採用された証拠がありません。
証拠がないのは、そのような国家制度はなかった証拠です。
従って、魏朝皇帝などが、周制回帰を謳ったとしても、周制に短里は含まれず、結局の所、曹魏短里は無かったのです。
もちろん、「大夫」を、陳腐な庶民の階級から、皇帝に準ずる高官に復帰させたほど、周制の復活に精力を傾けた、新帝王莽も、里制には手を付けていないのです。
3 地域短里説の堅持
倭人伝短里説の旗手とされた曹魏短里は無効、後ろ盾の周制短里も根拠薄弱では、短里説そのものの当否が問われる事態になっています。しかし、倭人伝が短里で書かれたという解釈は、依然として揺るがないのです。
今や孤塁となった地域短里説ですが、時に批判の論拠をとなっている「三国志全体が普通里制として、なぜか、そこに短里が紛れ込んで混在している」との評価は、評価者の深刻な認識不足です。
行程道里記事の冒頭で地域短里が宣言され、伝末まで全て地域短里なので、首尾一貫した語法が敷かれていて、「混在」などしていないのです。(面積表示の「方里」は、道里ではないので別格です)
論理の帰結として、太古以来三世紀に到る時期、倭人伝道里記事に記載された朝鮮半島中南部以遠に、短里が適用されたと見るべきです。
文献史料に記載が無いので、なぜ短里が適用されたかは不明です。倭人伝で有効であったとする根拠は、倭人伝そのものです。
未完
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