倭人伝随想 15 倭人伝里程の話 短里説の終着駅 6/6 再掲
2019/02/27 表現調整 2020/11/10
□余言として
以上の議論の補足として若干余言を述べます。
*地域表記宣言
ここまでの地域短里、地域水行宣言に比べると地味ですが、倭人伝が、郡から狗邪韓国まで七千餘里と千里単位里程で書き出したのは、倭人伝里数は千里が単位で、百里桁は無視という宣言です。
直後の郡からの沿岸水行里数も日数も書かなかったのは、端数は書かない、無視したとの宣言に他なりません。(そのような水行などなかったという見解が後出します)
時に苦言を呈される倭人伝独特の書き方、地域表記は、全てと言っていいくらい、冒頭附近で宣言されていて、編者陳寿の叡知と見るべきです。
諸兄は、これを理解の上、それぞれの道を選んでいただきたいものです。
*部分里程総和
古田武彦氏は、『「邪馬台国」はなかった』において、倭人伝行程記事の全体里数と部分里数の総計は「厳密に」一致するという趣旨を提示し、これに強くこだわったため、「島巡り」記法などを唱えて書かれざる端数里数を発掘し、数字合わせしています。
これは、以上に示した倭人伝記述方針を見落としたための誤解であり、当方の見る限り、『「概数計算によれば」、全体里数と部分里数の総計は一致する』と訂正すれば、そのような誤解は解消すると思います。
*端数里程について
そうでなくても、自身の仮説に整合させるために、史料の行間から数字を取り出すというのは、氏の史料観を外れているように思います。
一例として、倭人伝が狗邪~末羅を渡海三回三千里とした意図に反し、島巡りの端数里程を「発掘」したのは、伝の里程観を見損ねたと見るのです。
倭人伝が、些末は理解の妨げと省き、渡海千里と概括した意図に従い解すべきです。つまり、総計算で編者達が熟慮の上捨て去った端数を拾い戻すのは、千里単位の概数構想(日数は十日単位、一日三百里)と合わないのです。
これは、概数計算で大局的に整合させて書かれた記事に場違いな厳密さを求めた不合理であり、史料は、書かれたままに読むという方針を踏み外しています。
三国志大家が、議論の逃げ道として、全三国志を読んでから議論しろと自陣に逃げ込んでいる「カタツムリ」戦法に染まったのでなければ幸いです。
どんなに明晰な理論に基づいて考察していても、万事に適確(適度に正確)な史観を持ち、適用するのは、この上もなく困難で、誰も、完璧ではないのです。
*参考資料 (誤解、見過ごし 御免)
⑴ 方位、里程論:倭人伝短里説は、安本美典氏の創唱と見えます。
⑵ 誇張説:古来、事例多数につき、省略します。
⑶ 創作説:岡田英弘氏を始めとして、渡邉義浩氏の独断的見解が、諸処に見られます。
⑷ 里制用例論議:曹魏短里説は、古田武彦氏の創唱であり、山尾幸久氏、白崎昭一郎氏等との用例解釈論争が知られています。(『「邪馬台国」はなかった』等)
⑸ 曹魏布令論議:文帝布令説は古田武彦氏『「邪馬台国」はなかった』の示唆により、文帝提唱明帝布令説は、古賀達也氏の著作に見られます。
完
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