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2020年11月 7日 (土)

新・私の本棚 岡田 英弘 「倭国の時代」 改  2/2

 ちくま文庫 2009年2月初版  
私の見立て ★★★★☆ 独創強引の歴史講釈 2020/01/17 追記2020/11/06

○東夷西戎の不均衡
 衆知の如く、倭人伝は、夷蕃渉外の一端であり、本来並記すべき漢代以来の西域伝を敢えて割愛したのです。西域伝を欠くことは、賈豎(商家の小僧)にわかる不備ですが、大して誹謗されていないと見えます。

 三世紀当時当時、魏代西域渉外は、言うに足りる功がなかったと知れていたものと思われます。歴史地図では、三国鼎立時、西域は、魏の支配下であって、「西域長史府」なる「組織体」が西域を管轄していたと見えますが、実際は、後漢末桓霊代以来、魏に至っても、西域支配は断絶していました。

 霊帝末に、河西回廊の涼州勢力は、曹魏支配から自立し、成都の蜀漢と連携して、関中の旧都長安の獲得を目指していました。と言う事で、涼州の壁が、魏と西域の間を封鎖していたので、曹魏の西域支配は成立しなかったのです。支配していない西域の「伝」は書きようがなく、魚豢は、後漢以来の事績を「西戎伝」にまとめて、魏朝の欠点を覆い隠したのです。

*「月氏」の虚構
 来貢記録の月氏は、漢武帝以来の古狸で交通途絶していましたが、その国を奪った貴霜が遠路到来した時、怠慢を責めず久闊を叙した印綬です。
 「魏略」編者魚豢は魏朝官人で、その佚文は魏朝本位であり、諸葛亮は逆賊として罵倒される具合ですが、孫引き引用は、当然不正確と見えます。

 但し、西戎伝は、裵注が劉宋帝室善本を魏書末尾に「全文収録」したので佚文ではありません。裴松之は、陳寿が、漢書ではなく献帝時に「左伝」を念頭に編纂された荀悦「前漢紀」に範を求めたと見て共感したが、世の熱望黙しがたく付注した一環として、世の「西域伝」割愛不満に対応したと見えます。そのため、漢書西域伝に続く、「後漢」西域伝の大要が残っているのです。二十世紀初頭に世紀を迎えた欧州の西域探検家達は、魏略西戎伝を、座右の書として、オアシス都市の探検に臨んだと言われていますから、後漢代の西域事情を記すものとしては、最上の情報源だったのです。これに対して、范曄後漢書は、自身の理解に従って造作したため、不正確な記録になっているのです。

 岡田氏は、陳寿が、王沈「魏書」なる幻の先行史書を下敷きにしたと言いますが、裴注で引用されていないのは、同書には、西域伝不備であったと示しています。

 まとめて言うと、魏志第三十巻末の魏略「西戎伝」に魏自体の月氏功績は皆無です。貴霜(クシャン)をはじめ、数国が堂々と来朝したと錯覚されていますが、丁寧に読めば、実態の無い造作であることが、素人にも確認できるはずです。

 因みに、氏は、著述にしろ、写本、刻本にしろ、複数の専門家が、注意力を振り絞って校正すれば「ポカミス」は、ほぼ撲滅できるという基本原理をご存じないのでしょうか。専門家は、凡人の軽率を克服できるのです。

○史書嘉納
 司馬懿は、明帝から、継嗣曹芳の支持を遺託されながら、後年、退位させたと明記されています。蜀先主劉備の白帝城での遺託が、諸葛亮によって、その死に至るまで守られたのと対比すれば、陳寿の筆は明らかです。そもそも、「三国志」と称するものの、呉志は孫堅の偉業を、蜀志は劉備と諸葛亮の盟約を謳い上げています。
 晋帝は、そのような陳寿の筆を承知の上で、魏書を嘉納したのです。

○勿体ない断言
 岡田氏ほどの巨匠でも、人間的な欠点は一つならずあるようです。勿体ないことです。特に、学界大勢の子供じみた曲筆同調は氏の見識を疑わせます。
 聞くところでは、氏は、氏の著書は、学究の最終形で、ご意見無用と表明したようです。おかげで、氏のご威光の残照が、広く影を投げているのです。低レベルの意見ほど、派閥を問わず、広く伝わるのです。

○まとめ
 所詮、大家の卓見に、素人が口を挟んでも、世間に一顧だにされないのですが、ここでは、氏の壮大な講義に対して、率直な異議を呈するのが、素人の素人なりの務めと思うので、ここに、愚見を呈したのです。
                                 完

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