新・私の本棚 別冊歴史読本 日本古代史[謎]最前線 1/2
発掘レポート 1995 人物往来社 1995年2月刊
私の見立て ★★★★★ 情報満載の好著 2020/12/08
○はじめに
「今どきの歴史」風潮には文句がありますが、ここでは、往年の好著二件を取り上げ、その提言が見捨てられていることを指摘することにします。
□治部省の役割と遣外使節の派遣をめぐって 松尾 光
当記事は、八世紀初頭の日本政府の対外折衝機構を取り上げ、その組織と使命、役割を、中国唐代律令制度と照らして考察しているものです。
*疑問点の解消
最初に疑問点を挙げておくと、当時、「東アジア」、つまり、CJK、中(China)・日(Japan)・韓(Korea)の関係が、中国中心の漢蕃関係であって、三国の「国際関係」などではなかったことが、末尾で確認されていますが、記事の大半はJ(日本)視点になっています。
あくまで、CJKでは、C中国王朝が世界中心であって、当記事のJ国内制度は、あってはならないものです。「律令」は、唯一C律令だけであり、蕃国が、我流律令を制定、公布するのは討伐対象となる違法行為です。
蕃国律令では、蕃王が最高権力者であり、それだけで反逆です。世上、遣唐使が大宝律令を献上したと見る方がいらっしゃいますが、不遜な蛮夷と雖も、そのような自滅行為は犯さなかったのです。とはいえ、律令の官職と異なる J職名は、律令盗用でないとの逃げとも見えます。
K二国は、対岸の中国文化に直撃されても、Jは馬耳東風だったのです。
*蕃客対応の規定
さて、当記事で説かれているのは、J制度で、来貢する「外国人」の対応を行う部門として、礼部、鴻廬の二部門が想定されていることの不審を述べ、それが、C律令に基づくものだとしています。
例示されるのが、隋書俀国伝の隋使裴世清の「文林郎」なる役職です。国使(行人)ですから、外務高官のはずなのですが、同職は最下級に近い下級文官に過ぎません。俀国はその程度の扱いであったのです。
*裴世清の職分
実は、書紀には、隋使裴世清は鴻廬掌客と書かれていますが、氏は議論の本筋に影響しないので、この点は省略しています。
私見では、下級文官、雑用係と知れては不都合なため自称しなかったはずですが、書紀は、編纂時に補填したのか、裴世清の身分を誤解して、鴻廬掌客とし、これに対応して、蕃客受け入れとして、高官を筆頭とした三人を掌客に任じたとしています。是は、J国内基準の官職なので、魏使の耳にさえ入らなければ、扶南に過ぎたことでしょう。というものの、長期間の滞在中、自身の氏名、官職を、一切名乗らずに済んだのでしょうか。名乗ったら、苦言を受けて、訂正することができたでしょうが、何も指摘されなかったのでしょうか。
掌客が、C基準に従っていたとしたら、蛮人が勝手にC官位を名乗ったことになり、これも無礼なのです。
ということで、三人の叙任は、後世の造作であり、記事全体が、後世の造作では無いかとの疑いが募るのです。
氏は、同時期のC外交使節役職を点検して、時に応じ、適宜、人選されていて、職業的な「外交」官はいないとしますが、鴻廬掌客も見かけていません。このあたりは、C視点で適確に検証しているのです。
*蕃客の仕切り
ついで、J視点に戻って、その職制を考証していますが、必ずしも、明解にではないようです。私見では、J視点では、蕃客は鴻廬典客が対応し、賓客は礼部が対応するような棲み分けをしていたのではないかと見るのです。書紀記事では、隋使に掌客が対応して蕃客扱いしていたが、何れかの時点で(とんでもない非礼であるという)不明に気づいたと見るのでしょうか。
いずれにしろ、広範なCJ史料を参照して、妥当な解釈に至っているのは、賞賛に値すると思います。当方は、二十五年を経た今日の論客が、先人の功績を無視して、勝手な論理を展開しているのを嘆かわしいと見るのです。
未完
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