新・私の本棚 番外 NHKスペシャル 「“邪馬台国”を掘る」 4/4 改
2019/01/25 追記 2021/01/03
*井蛙新種 中国人の幻想
ついでに言うと、中国人学者が、「三世紀当時、東アジアでは魏の強さと文化の高さを誰もが知っていた」と放言するのは、いくらでかくても、井戸は井戸、蛙は蛙と自覚していないということです。時に、中華思想と言われる独善の偏見で、中華三千年、千古不抜の大蛙です。
「東アジア」と勝手に後世用語を取り込んでいるものの、その範囲は朦朧としていて、日本列島は認識外だったので、中国の認識している東アジアではと言うべきでしょうか。それにしても、呉と蜀には、全く別の意見があったでしょう。
少し丁寧に言うと、中華文明の一員でないもの、中原天子の威光を知らないものは、「人」ではないということです。
つまり、「東アジア」と「誰も」の二点が大きく曲がっているので、魏を天子と認めないものを数えないという「狭量な」視点だから「誰もが知っていた」と、信念を持って断言できるのです。いや、古代史学者は、当の時代の世界観に身を浸さないと、適確な時代考証ができないのですが、前触れせずに神がかりされると、理解に窮するのです。
と言うものの、当時の東アジアで、中華文明の一翼を担う劉氏蜀漢と孫氏東呉は、成り上がり者に過ぎない曹氏魏帝を天子と認めていなかったし、夷蛮の輩(やから)であってもすでに数世紀に亘って君臨していた高句麗王国は、自身の天下り創世紀を擁する神話大系を確立していて、確固たる創世神話を有さない中華文明の、しかも、ぽっと出の魏皇帝を「天子」と見ていたわけではないはずです。
「知っていた」が、単に知識、認識の問題なら別ですが、ことは尊崇、心服、服従まで含まないと話にならないから、このように批判を浴びるのです。
*逆「夜郎自大」 中国人の幻想
そして、朝鮮半島はともかく、日本列島全体で、魏が何者か知っていたのは、百人といなかったはずです。何しろ、漢字が読める人は、ごくごく限られていたから、衆知どころか、知る人はごくごく希だったのです。魏の創業者が誰で、どのようにして、亡国の漢を救ったかなど、を紹介した文書など存在しなかったのです。もちろん、魏志も魏略も存在しなかったのです。
冗談半分に言うと、魏は、委と鬼であり、要は、倭の鬼になるのです。魏は、鬼が住んでいるところかと思いかねないのです。
魏の皇帝は、井蛙ではなかったので、「海の向こうの魏という偉大な国の威光を、汝が広く、隈無く国中に伝えるのだ」と文字のない蕃国の王に、優しく指示したのです。
*愚問愚答 メディアの罪過
中国の専門家というものの、先に示したように視点の偏りは避けられず、また、質問に添える情報が、不備満載で愚図愚図に崩れていては、適確な回答は、ますます得られないのです。これは、愚問愚答というものです。
*女王の権力 現代人の幻想
ついでながら批判すると、女王が「原始的な道教」で人々を支配したという仮説も、とんでもない言いがかりで、見る人が少ない君主は衆を惑わせないのです。まして、当時存在しなかった「シャーマン」の濡れ衣を着せられても、当人は、一切反論できないのですから、困ったものです。史書から遊離した、個人的な妄想は、史書記事の解釈から外すべきです。
*張魯の幻像
例えに引かれた五斗米道の張魯は、「教民」したのですから、幹部を介して文書で詳しく教導でき、それ故、東夷から見ると遥か西の漢中郡に強力な教団組織を設け、一種の王国を築いて、後漢朝に服従せず、周辺諸侯と対抗したのですが、こちらの文字の無い王国では、面談なくして国王の意志は伝わらず、綿密な権力支配は不可能です。とても、参考にはならないのです。
*老婆王幻想
いや、最近の番組では、素人談義で、女王は、青壮年期、絶大な呪術で人々を支配したが、老齢で呪術が衰えて死を招いたなどと、根拠不明のとてつもない空想絵巻を繰り広げて、特に反論を浴びないのですが、「老齢」も「呪術」も、倭人伝には一切書かれていないのです。
当番組は、そこまで俗論に堕することはなく、学術の衣をきちんとまとっていて、さすがにまだましという事でしょう。
*結語
と言うことで、当番組は、大量かつ貴重な素材に基づいていて、大変有り難い番組なのですが、理屈づけに関しては、特定の論者に傾倒したように、安直で筋の通らない話が多いのです。
以上
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