新・私の本棚 番外 小澤 毅 邪馬台国の会 第386回 講演会 3/4 改
『魏志』が語る邪馬台国の位置:小澤毅(三重大学教授)2020/02/23開催
私の見立て ★★★★☆ 堅実 不偏不党 2020/04/04 改定2021/01/29
*道里の辻褄
端的に言うと、郡~倭の全所要期間と全里数は明記されているから、道里に応じて日数を配分すれば、個別日数は推定できるはずです。
手早く言うと、倭人伝の道里は、一日三百里程度であり、千里単位が大半であるように、大まかな概数ばかりです。
本来無理な時代考証より史料依拠の大局論が先ですが、姑息な辻褄合わせが本筋を外していると見えます。
例えば、皇帝の下賜物の送達が任務である魏使が、迂回や巡察で日数を費やしたと推定するのは辻褄合わせの例です。使節が行程道里の記録を報告したのなら、迂回や道草を報告するはずはなく、また、読者たる高官が誤解する書き方を採用するはずはないと思うのです。行程が、景初、正始の記録に基づくとは早計でしょう。生還すら当然ではない使節の報告を、新来蛮夷「倭人」の「倭人伝」記事に採用するのは早計です。
使節の使命は、帯方郡からの文書到達日数であり、文書回答期限に関わる事務的事項であり、荷を抱えた魏使の「実際の」行程は参考にならないとも言えます。
放射説の解釈で、伊都国から邪馬台国への行程を「水行十日、陸行一月」とする「決め込み」は、畿内説の生存に拘わるので作業仮説として採用しても、考察途上で不都合があれば、遡って再考すべきです。ことの採否は、文法や字義解釈で決定されるべきではないと考えるものです。まことに残念です。
と言っても、これは、多くの先賢が陥った錯覚であり、「伝」の構成要件を見落としていても批判されていないのですから、氏の責任とは言えません。針路を見失い行き詰まったときは、迷わず原点回帰すべきでしょう。
幾つかの先入観が、魏志の解釈をあらぬ方向に転進させています。
*隋(唐)使来訪史料引用
参考資料として推古紀を無批判参照するのは出典を明らかにしないのとあわせて不用意です。信頼性が不確定な「唐使来訪」国内史料は「魏志」批判に無効です。何しろ、空前の蕃客来訪記録ですが、精々が不用意な原資料引用です。中国正史すら、信用すべきかどうか精査が必要なのに、国内史料は無批判とは、困ったものです。
『魏志』の里程の誇張
無批判な先行諸説依存で、賢察が台無しです。「里程誇張」論は、前世紀の遺物、レジェンドであり、早急に引退いただくべきです。「水増し」を「事実」と呼び、「可能性を示唆」は直後に「誇張が確実」と錯乱しています。
狗邪韓国は郡管轄下であり、その道里、所要日数は、官制で厳密に管理されていたものです。言うならば玄関先を七千里と書くのは、賢察の果てと見るべきです。粉飾、誇張、水増しとは、郡太守も見くびられたものです。
*水増し論~余談
氏が、誇張表現とする「水増し」は、案ずるに、江戸時代の居酒屋が、上方から届いた濃いめの下り酒を喉ごしの良いように水割りして提供したことを諷しているようですが、当時の商習慣の揶揄を、無批判に「魏志」に適用するのは、氏の見識が「水増し」供用されていると見え、勿体ない誤用です。
もっとも、氏自身が、「魏志」道里は「水増し」で無く、整合性を保っていると評しているので、あるいは、関東方面で蔓延しているらしい論争作法と見られる「罵倒」儀礼と忖度するしか無いのでしょうか。私見では、論議の邪魔になる遺物表現は、早々にレジェンド扱いで博物館入りさせるべきでしょう。
未完
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