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2021年1月 3日 (日)

新・私の本棚 番外 NHKスペシャル 「“邪馬台国”を掘る」 3/4 改

                               2019/01/25 追記 2021/01/03
*手土産幻想
 寺沢氏の言う、纏向の全国焼き物の出土は各地から参上者の手土産との見解は、大御所石野氏の創唱した共同信念のようですが、当時、地の果ての各地から、草枕を重ねて幾山河を越え鍋釜を抱え来る図は、何とも不思議です。(友人に言うなら「顔を洗って出直してこい」です)

 まして、諸国幹部が参勤したというのは、妄想的なロマンであって、権威者が公言すべきでないと見ます。

 出土品は、纏向が各地に求め近隣取引の繰り返しの果てに渡来したとみるものでしょう。調理時間を短縮できる特産薄肉土鍋との物々交換連鎖で、数千個の多数ならともかく、この程度の数なら各地産物の代替入手は可能でしょう。繰り返しになりますが、纏向来訪者が、山川越えて、時に野宿しながら、肉厚土鍋の重荷を手土産持参する図は途方もなく滑稽です。どうして、そんな苦難に耐えたのでしょうか。
 近隣交易なら、隣の村の市に持ち込んで売り込み、交換に入手した買い物を持ち帰るのは、その日のうちです。朝飯前でないにしても、お安い御用と言うべきです。

*纏向神話の誕生

 遺跡には年代記録がないので、番組内で飛び出す、「当時」という常套句は、実は、半ば嘘です。嘘といって悪ければ、発言者がそれぞれ内心に抱えているフィクションなのです。同様に、三世紀について語るとき「日本」というのも、フィクションです。誤解を招く粗雑さです。互いに思うことが違うのに、わかったつもりで言葉が行き交うのは、困ったものです。

 いや、地理概念として「日本列島」というのは仕方ないでしょうが、千八百年前に対して、「日本列島が一つにまとまる」などと言うのは、視聴者の誤解を誘う意図でなければ粗雑な夢語りです。何しろ、「日本」が統一政権になるのは、まだ、四世紀以上後なのですから、こんなに早くまとまるはずがないのです。
 別の言い方をすると、そんなに早く統一の中央権力があったのなら、なぜ、文書行政や街道整備ができなかったのでしょうか。文字も街道もないのに、地の果ての者達に、厳しく指令できたのでしょうか。そして、地の果てからの命令に、なぜ従ったのでしょうか。

*遺跡年代遡上の怪
 そうしたイリュージョンが蔓延る(はびこる)裏で、遺跡の年代観遡上が進行しているようです。

 考古学の従来の見方で虚心に見て四世紀後半の遺跡とも見えるのに対し、素人目にも、三世紀初頭の必達目標に整合するような改定の仮説が、次々裏書きされていると見えます。

 案ずるに、三世紀初頭、いまだ発展途上の奈良盆地にこの遺跡が降って湧いて、次に、半世紀待たずに箸墓があり、そのあと、本格的な古墳時代が開花したというお話のようです。建物の構造も、後の番組では(前例のない)角柱穴に変貌しています。

 同じ遺跡、遺物を見ているはずなのに、関係者の思い描く世界は、ずるずると時代を遡っていたようです。倭人伝の呪術、卑弥呼の鬼道が現代人を迷わせているのでしょうか。その錯覚のせいで、後年、桃種の時代鑑定で仰天することになったようです。

*纏向助長策
 纏向は、古代国家の双葉とみたものが、助長されて若木に、そして成木になり、矢継ぎ早に国に育つさまは壮観ですが、その意図がわかりません。
 中国史書魏志倭人伝記事、それも卑弥呼埋葬の「冢」を箸墓にこじつけ、時代考証のずり上げと女王国比定という二大課題を、一石二鳥とばかりの神業で決着させようとする努力が繰り広げられているものと思われます。

 折角、現場で現物に接する幸運に恵まれているのに、つまらない先入観で、視覚が曇っているのは、もったいないことです。

                             未完

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