新・私の本棚 旺向栄 「中国の研究者の見た邪馬台国」 2/3 改
2019/01/14 追記 2021/01/03
同成社 2007年12月
私の見立て ★★★☆☆ 有力・力作 但し難点多々
*後漢書多難
氏自身が認めるように、臺と壹は互いに間違えられていました。笵曄後漢書は、編者の刑死後、宋朝(南朝劉宋)に大逆犯の書として忌避されて密かに私蔵されていたので、早い段階に素人写本につきものの誤写があって、それが、唐、五代期に他史料に伝わった可能性もあります。誤写ごっこです。所詮、誤写論は当て推量で決め手にならないのです。
後漢書不信論は、古田氏の信条に反するから、古田氏自身は一切唱えませんでしたが、当方のような素人が、世上、倭人伝にたっぷり浴びせられる理不尽とも見える不信論の数々を見ると、多少は、後漢書の信頼性に批判を浴びせても、もっともではないかと思うものです。
最後に、魏代、三国志の用例を残さず検討して、『「臺」の文字は、貢献した魏朝に於いて、特別扱いされていたから、蛮夷国名に使わなかったと判断すべきである』と言う古田氏の名分論が残るものの、とにかく、この件に対する異論は、聞く耳を持たない、という感じでは議論になりません。実際、三国志の普通名詞としての用例では、それぞれ、物々しい用語であり、蕃夷の国名に起用できるような気楽な文字ではないのは、明らかです。
*仁義の世界か
と言うものの、日本の古代史学界の客分であった氏は、仁義の上からも、学会定説に従属し、古田氏の論に与することはできなかったと思われます。もったいないことです。中国古文知識が該博でも、日本文献解釈が的外れでは正しい判断から遠ざかっています。
*大いなる錯誤
第三篇1.「弥生時代後期の日本」の信条(Credo)には、同意しかねます。
いきなり、「歴史には自らの規制があり、ありもしないことを捏造したり、勝手な比定や仮定をすることはできない。」と意味不明の字句を掲げていますが、それが、本当に氏の信条宣言なら返品させて頂くのです。
「歴史」なる主語に、どんな人格があるのか正体不明であり、正体不明の人格「自らの」規制など「おととい来い」です。
続く発言は、当然に聞こえても、「ありもしないこと」と「あったかも知れないこと」は、どうして区別できるのか困惑します。
さらに、「勝手な比定や仮定」と言うも、論者は、自分に都合の良い「勝手な」仮説を立てなければ何も論じられません。氏は、自分に対してその試練を与えないのでしょうか。献身する相手を間違えたと見えます。
以上は、あるいは、氏の真意ではなく、誤訳の産物かも知れないのですが、不満を持っていく先は、著者しかないのです。
*非正当的史学観
続いて、文献検討より、考古学、民俗学、言語学、及びそのほかの関連学問の研究を重視すると言いますが、中国史学は、文献史学が根本であり、関連学問は、近代になって、つまり、清朝亡国後、日本を経由して到来した西洋文明に影響されて派生したものでしかないのです。
派生が根本を乗り越えるなどは、何かの勘違いでしょうか。
まして、近年浮上してきた「実証」面の検討は、十分な検証、試練を経ていないから、文献史料の傍らに席を得るに過ぎないのです。
そもそも、史学の対象は、遥か昔に生起していまは存在しないことで、後世である現在からは、遙かに偲ぶことしかできないから、実証など虚妄なのです。
以上のような不合理な先入観から書かれている著作は、残念ながら、人文科学の書ではないから、読まない方がましであると言われそうである。
未完
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