新・私の本棚 「九章算術」新考 方田と里田~「方里の起源」 2/2
古代の教科書を辿る試み~中國哲學書電子化計劃による 2021/01/24
㈡「里田」例題
⑴今有田廣一里,從一里。問為田幾何?
答曰:三頃七十五畝。
⑵又有田廣二里,從三里。問為田幾何?
答曰:二十二頃五十畝。
里田術曰:廣從里數相乘得積里。以三百七十五乘之,即畝數。
続いて、広い範囲の土地の縦横と面積の「里田」例題が提示されます。
行政区画が県へと広がると、{頃-畝}で収まらないので里で表現します。
一里三百歩なので、縦横一里の面積一「里」は九万「歩」、三頃七十五畝です。十進法でないのは、太古、元々別の単位系として成立したからです。
*広域集計という事
「里田」は、頃-畝単位系から里単位系への面積換算を規定していて、これは、国家里制、度量衡により一意的なので、両制度に従います。
以降で、不規則形農地の検地が提起されますが、これは、地方吏人が測量実務で直面する例外的な事例への対応に備えて、現代で言う「幾何学」な多様性に対応する算法を説いているものであって、国家事業として開梱された正規農地、つまり、定寸矩形の農地の面積計算には必要ないのです。諸賢は、「方田」関連の多様な形状の農地に関する「例題の数の多さ」に幻惑されるようですが、農地が台帳登録されると、後は数字計算です。九章算術の残る部分は、面積数字を計算するものです。重要性は、数の多少で評価するものではないのです。
*道里の里、方里の里
道のり、道里の単位「里」は、一里三百歩で、度量衡の尺と厳格に連携しますが、一方、一辺一里の方形の面積「方一里」は三百七十五「畝」で厳格に連携します。
以上は、必ずしも史書想定読者全員に自明ではないので、「道里」は、百里と書くものの面積の里は、「方百里」と書いて混同を避けたようです。
*面積単位のあり方 (余談)
近代メートル法国際単位が敷かれたとき、身近の面積は平方㍍、広域の面積は平方㌔㍍であっても、百万倍の違いはとてつもなく大きく、農地面積には、十㍍四方を単位とした㌃や百㍍四方を単位とした㌶が常用されています。
面積は二次元単位なので、一次元単位を十倍にすると百倍になり、数字の桁外れが起きるので、SI単位系の例外として常用単位で埋めたのです。
*東夷伝方里の解釈
東夷伝の事例で、韓国「方四千里」と一大国「方四百里」が登場しますが、一辺里数で領域面積を表現したとすると、十倍の大小関係と見えて面積は自乗関係で百倍の大差では、読者たる高官の誤解を招くので不都合です。
一辺里数でなく全周里数とみても、自乗関係に変化が無いので、韓国は一大国の百倍であり、実態を裏切る、無意味な比較になるのです。
あるいは、遼東郡の北の大国高句麗が、南の小国韓国の四半分の国土と読めては、高官の判断を誤らせるので、不合理なのです。
ということで、合理的な解釈が残ります。
東夷伝で、遠隔、未開の国「方里」は、それぞれの農地測量・検地された台帳記事の集積で、収穫・徴税と直結し、国力指標として最も有効です。
しかし、台帳で把握されている「耕作地」は、全土のごく一部に過ぎず、大半は、山野、渓谷、荒れ地、海浜など測量されない非耕作地です。
過去、当記事の主張と同様な提言があったとしても、国土全域の表現と見ると、余りに狭小なので、間違いとされたことでしょう。それは、後世の世界観で、国土の全面積が測量可能であるとか、その面積に意義があるとか、時代錯誤の先入観を抱いていたためです。
あるいは、「方里」と道里の混同を招いたためです。三国志は、現代日本人の先入観を満たすために書かれたものではないのです。
*まとめ
本稿は、論証と言うより、合理的な考証と思うものです。
否定されるのなら、不確かな実証論でなく論証をいただきたいものです。
以上
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