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2021年3月

2021年3月19日 (金)

私の意見 サイト記事批判 「古本三國志について」 再掲 3/3

                 2014/07/07 加筆再掲2021/03/18
〇類書の「信頼性」
 類書の信頼性の低い極端な事例で、「翰苑」写本の信頼性が上げられます。
 翰苑支持者は、翰苑は早期の編纂書であり、現存写本は写本回数が少ないので原本を忠実に継承しているはずであると評価しているようです。随分、史料批判を端折ったもので、倭人伝研究者も見くびられたものです。
 しかし、冷静に現存写本を観察すると、たった一度でも、誤りの多い写本工程を経ると、信頼性が壊滅的に悪化する惨憺たる「好例」とみることができます。個人的には、100点満点で10点以下の信頼性と思われます。

〇未完の論証
 ブログ著者は、丁寧に資料を発掘して「魏志倭人伝の現存刊本記事は、陳寿原本記事と同一とは限らない。その証拠に、傍系資料には別の形式の記事が伝わっている」という、理性的と見えるな主張を進めてきましたが、結局、魏志現存刊本を凌ぐ資料は見られず、論議は「壹臺」誤記論に辿り着かず、未完です。

 確かに、典拠資料を数多く提示する姿勢は貴重ですが、それら資料の信頼性が、まるで評価されていないのに加えて、論理の進め方に動揺が目立つのです。別に、反論にさらされて議論に窮していたとは見えないのに、なぜ、このような無理な(理屈の通らない)運びをしたのか不可解です。

〇不確定論の泥沼
 最後に、以下の捨て台詞が登場して、素人読者に徒労感が漂うのです。

 「いずれにしても、失われた書籍の方が残されたものより遙かに多いのは確かだろう。その「失われた書籍」に思いを致しながら、今日残る「書籍」に触れる構えを持たなければ、現在の文面に「惑わされ」ることになり、真実からは遠ざかるのではないかという危惧の念を持つ。

 これは、まことに情緒的な発言で、ブログ著者の意図の理解に苦しむのです。因みに、倭人伝に見られる「惑」は「感動させる」と肯定的な意味ですが、ここでわざわざ「」書きで何を意図しているのか、ちと怪しいのです。

 と言うものの、この捨て台詞は、「古代資料の原本は残っていないから、現存古代資料は当然誤った内容を含んでいる、だから現存する古代資料を信用してはならない」との趣旨と思われます。

 そこで「現存資料が原本と同一との確証がないから信用できない」と誇張されては、議論が不確定論の泥沼にのまれてしまいます。瑕瑾で前議論を否定するのは本末転倒であり、そのような暴論は忌避されるべきです。

 ここまでいろいろな資料を提示しておいて、最後に、そんな資料は全部幻だといわれては、懸命に議論を追いかけてきた読者はたまらないのです。
 当時も今も、「壹臺」誤記論を支持する読者が決して多くないのは、こうした「情緒論」を基調に無理な論議を進めているからのように思えます。

〇筋の通った議論
 少し考えればわかるように、千年を超える古代資料を論ずるのに、現にそこにある史料の文字を、より信頼性の乏しい傍系資料に基づく憶測の文字に書き換える議論は素人目にも筋の通らない勝ち目のない議論です。

 筋の通った見方は、「魏志」と「後漢書」を横並びで資料批判した上で、魏志「邪馬壹国」より後漢書「邪馬臺国」に高い信頼性を見出そうとする論議です。後漢書以降の正史編纂者も類書編纂者も、その議論を経て「邪馬壹国」でなく「邪馬臺国」を採用したのでしょう。それが科学的な論法と思います。

 ブログ著者が、いみじくも述懐しているように、「失われた書籍」に関して白熱の議論を展開するのは、この辺で終わりにしたいものです。

                                以上

私の意見 サイト記事批判 「古本三國志について」 再掲 2/3

                 2014/07/07 加筆再掲2021/03/18
〇現存刊本
 今書いた 現存刊本が、良質写本から順当に継承されたという評価は、直接的には、考証家に従うとして、間接的には、現存刊本が、各種刊本、写本から、最善史料と選択された事実が裏書きしているものです。

 これに対しては、異論もあるでしょうが、いずれにしろ、この議論と最前上げた「壹臺」誤記論との間には、論理的な繋がりがありません。そして、「壹臺」誤記論の対象は、実は、倭人伝二千文字中の一文字に過ぎません。

 それにしても、魏志現存刊本(紹熙本)の素性が怪しくて誤字が多くても、世上騒いでいるように、『魏志の「邪馬壹国」は、疑いもなく「邪馬臺国」の誤写である』という特殊な主張を裏付けるものではありません。

 なお、傍系資料である「後漢書」および類書類の現存刊本では、「耶馬臺国」に類する文字遣いで記事が書かれていることは衆知です。

〇資料の信頼性
 素人目にも不思議なのが、魏志陳寿原本から現存刊本までの写本工程で誤写があって当然(可能性百㌫)と扱われるのに対して、「後漢書」および類書類の現存刊本の誤写について同等の批判がされていないことです。

 写本の信頼性には、それこそ天地の差があるのですが、右から左にそのまま写し取る写本であれば、写本工自身も正誤をその場で確認できるし、官製写本で取り組むのであれば、検査/監査役を二重に設けて、重ね重ね確認(ダブルチェック)して万全の注意を払えば、ほぼ完全に誤写検出できます。

 賞罰の極致として官製写本の重大な誤写の見逃しは、監査役などに族滅の極刑の(親子兄弟の首が飛ぶ)可能性もあり信頼性は極めて高いと推定されます。

 個人的には、官製写本は、長年の写本累積や戦乱などによる障害も含めて、100点満点で70点程度の信頼性と思っています。

 これに対して、類書類は、最初に正史から抜き書きする段階で使用する写本の信頼度が不明である上に、抜き書き以後は、類者編纂者の手で気楽に修正される可能性もあり、正史写本ほどの信頼を置けないと考えます。

 先に挙げたような信頼性を高める手段は、高度な人材と資材をふんだんに投入し、延々と時間をかけるものであり、正史等の官製写本以外の写本や抜き書きでは、再現できないものです。

 また、正史写本の世代継承に対して、二次写本いか、どの程度信頼性が低下するかは、天地の差がありますが、世に出た二次写本の以降の継承では、誤りは、累積、拡散していきます。正史の二次写本以降が度重なったかどうかは不詳ですが、本質的に官製写本に劣るものと見るのです。

 個人的には、二次写本、ないしは、抜き書きは、100点満点で30点程度ないしはそれ以下の信頼性と思っています。下には下があるのですが、零点以下は付けられないのです。

 類書など、情報源が同じ資料は、何点集まっても、群としての信頼性はさほど高まりません。親亀がこけたら、皆揃ってこけるからです。

〇史料批判の基礎
 科学者というより技術者見識でしょうが、資料の「信頼度」は、その情報継承過程の信頼性を、冷静に多次元の数値で評価して、綿密に比較しなければ論理的な態度とは言えません。「情緒」で割り切れるものではないのであり、「知性」が必要なのです。

                                未完

私の意見 ブログ記事批判 「古本三國志について」 再掲 1/3

                  2014/07/07 加筆再掲2021/03/18

〇「「壹臺」誤記論の不毛」加筆再掲の弁
 当記事については、原著者らしい方から、コメントがあったものの、史料批判の視点の勘違いに始まって、当記事の主旨が理解できないとの決めつけもあって、その辺りを理解いただけるまでは拙速で回答しても無益と思ったので、しばし返信を控えたのが、筆無精の事態となったようです。というものの、初出以来の六年に関連記事で繰り返し説明しているので、コメント回答を控えたものであり、決して無視したわけではありません。

 今回当記事を読み返すと、時間をたっぷりかけて推敲し諄諄と理屈を説いていて、これで理解できなければ、読者に、論考を時間をかけて読み解く素地がないと見え、まことに遺憾ながら、無縁の衆生と言いたくなります。

 つまり、倭人伝に関する議論は、まず、「基準試料」を決めて、それに対する批判を随時論証するのが常道であって、以下に指摘したように、後漢書倭伝を筆頭とする信頼度の低い後世史料の山盛りで、「基準試料」の個別の記事の当否を論ずるべきでは無いというものです。はなから、話の筋が曲がっているので取り合わないのであり、下記ブログ記事に至るまで、十何年もかけてこね上げたと見える混み合った議論に、後から入り込む気はないのです。

 喧嘩をふっかけて場を騒がせるつもりでなければ、例えば、後漢書は范曄原文かどうか、笵曄が「倭伝」を創作した原資料は何か、等々、慎重な史料批判が先立つものと思うのですが、何れかでご教授いただけるのでしょうか。

 何しろ、史料として全く信用できない「翰苑」所引の「魏略」佚文をもって倭人伝を訂正する議論が無批判で横行するから、即答できないのです。

 倭人伝記事の校勘について勉強したらどうかと言われても、ここに書いている議論は覆らないものです。要は、無縁の衆生です。
 「論より」現に存在している「邪馬壹国」の文字が「邪馬臺国」から改竄されたものという「証拠」は見当たらないと見ています。
 以上、最近閲覧件数が出ているので、念押ししておきます。 

〇原記事再掲
 今回の論評対象は、下記記事です。当初掲載Linkは廃番であり、下記は、「魏志倭人伝への旅」と題されたブログの過去記事再録であり、批判するときはLink掲載するようにとの要望であるので、論評の内容参照先としてここに示します。
 「「古本三國志」について」 (Author:hyenanopapa)

 さて、「翰苑」現存写本の書評に続いて個人ブログ記事を論評することになりました。もちろん、個人攻撃目的ではなく、「議論の進め方」についての素人考えなので、論旨を冷静に読み取っていただければ幸いです。

 初出以来10年を経た記事で、以下の論評は、時代遅れかも知れませんが、「壹臺」誤記論が解消したと聞いていないので、私見を書き残すものです。

 察するところ、ブログ著者の真意は、魏志倭人伝現存刊本に記載されている「壹」の字が「臺」の字の誤記であるとの主張の論証(「壹臺」誤記論) なのでしょうが、一向に、論証の画が描けていないのです。

 根回しとして、現存刊本の素性について年代物の仮説を述べていますが、現存刊本が、良質な写本から順当に継承されたという評価に対して、有効な反論が示されていないのです。ひび割れた骨董品のような俗説は、「レジェンド」、過去の遺物として用済みにされたらどうかと思うのです。

〇「本」の継承と言うこと
 私見ですが、魏志の「陳寿原本」は、裴松之の付注という、偉大な「蛇足」を外した、本来の「魏志」を言うものと思うのです。それは、現存魏志刊本から裴注を除けば、かなりの精度で「復元」できるのです。もちろん、陳寿自身や写本工、そして、皇帝に至る各初期読者の「読んだ」魏志とは、完全に同一ではないとしても、皇帝以下の読者にとって、「原本」に近いものと見てとるものと思われます。
 言うまでもないのですが、ここで言う「本」は中国語ですから、物理的な「書」でなく、その内容を言うのです。
 たとえば、「紹熙本」というのは、南宋の関係者が、紹熙年間に完成した「魏志」を言うのであって、物理的な印刷物「魏書」を言うのではないのです。
 

                                未完

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