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2021年6月 5日 (土)

新・私の本棚 番外 毎日新聞のはやし立てる 「今どき」の「歴史」と「進化」~平城京 第十条発掘綺譚 

 『平城京「十条」の発掘 九条の数百㍍南 「常識」揺るがす 歴史は調査で進化しうる  2021/06/05
 今回の記事は、本日(土曜日)付毎日新聞大阪夕刊 「岐路の風景」なる月一連載コラムの批判である。

⚪蒸し返しの確認
 記事の内容は、2007年に奈良平城宮関連遺跡の発掘で、従来南北九条とされていた平城京の第十条相当地に東西方向の道路遺構が発見され、発掘担当の奈良市教育委員会が平城京十条大路と断定したのに学会の同意を得られず、15年を経て、未だ、正当な学説として認知されていないことに、毎日新聞が、義憤を感じて、提唱者に加担する記事を書いたようである。全国紙ともあろうものが、何を今さら蒸しかえすのか、と不審を感じさせるのである。

⚪異様な展開に不満
 当ブログ記事筆者にとって、同時代、同地域には、誠に疎いので、記事に書かれている提唱者の言葉遣い、論考展開と毎日新聞社の態度に異議を唱えるものである。いや、学界構成員でないので、ただの素人考えを述べるのであるが、提唱者の世界観に大変不穏当なものを感じるのである。

⚪不穏当な語彙~今どきの「歴史」、「進化」
 記事タイトルにもなっている『 「常識」揺るがす 歴史は調査で進化しうる』なる言葉遣いは、学問的な「普通」の語彙に反しているのである。
 まずは、今どきのはやり言葉である「歴史」、「進化」の蔓延させている誤解を正す。

*「歴史」と「進化」の由来

 「歴史」とは、過去この世界に生じた出来事の積層であり、一度この世に生じた以上、書き換え、塗り替えなどできないのである。言い直すと、『歴史は』 不変である。

 恐らく、世界史的に見て後進国である英語圏の世界観、歴史観を直輸入しているのだろうが、日本には伝統があるのだから、勝手に、確立された「歴史」という言葉を乱さないでもらいたいものである。

 狭い学会で長年過ごしてきた提唱者は、そうした配慮は知らないのも仕方ないとしても、全国紙たる毎日新聞には、言葉に対する基準として断然守るべきものがあるはずである。文化遺産たるべき「言葉」の護り人として、当ブログで警鐘を鳴らしている外来カタカナ語の蔓延防止もさることながら、歴史的用語を守らねばならないのではないか。

 「進化」とは、ダーウィン進化論で知られるとおり、突然変異によって生じた新種によって与えられる、適者生存の生存競争、優勝劣敗の試錬であり、軽々しく口にすべきではないのである。学校でちゃんと教えて貰っていないのでしょうが無いのだが、まるで、今生きている人々が新人類に変身するかのような非科学的な「まやかし」に乗せられてはならないのである。少なくとも、勝手に、多数の先人が労苦の果てに積み重ねてきた伝統的な概念を踏みにじって、にわか作りの子供じみた思い付きを蔓延させないで欲しいものである。

 理屈のわからない子供に、当人の理解を超えた理屈を言い聞かせるようで、このような「苦言」は、なんとも甲斐の無い徒労の予感がするのだが、言うべき事は言うのが「誠意」の極みと思うのでも、敢えて書き遺すものである。

*不出来な新説、不出来な論証
 要するに、提唱者は、新規発見、新理論を見つけたから、古いものはさっさと捨ててしまえ、と言っているのである。

 しかし、それは、適者生存の生存競争に勝ち抜いての話であり、後発の者が常に勝つものではない。むしろ、「歴史」は後発の者が敗北した積み重ねである。俗に死屍累々と言う不快な表現をお許し頂きたい。但し、ここは、学問の世界であるから、感情を排して、議論で勝敗を付けねばならない。

*異様な「鳥肌世界観」
 提唱者は、古代ギリシャのアルキメデス以来、しばしば盗用されている「ユーレカ」症候群の罹患者らしく、事実かどうかは別として、慄然たる感激を覚えた「フィクション」を押し立てているようであるが、予兆としての「鳥肌」の解釈を間違えたようである。本来、おぞましく感じるはずなのに、至高の快感に溺れたようである。考古学に限らず、新説の90㌫は、はなからジャンクである。学問の徒として、恥をさらしているかも知れないという懸念は、生じなかったのだろうか。

 言うまでもないが、慣用句の現代風誤用を毎日新聞が政策的に煽り立てているのでない限り、「鳥肌」は、歴史的に慄然たる不快感で定着している。定例の解釈は、ガラスに爪を立てて引っ掻く響きによって掻き立てられる絶大な不快感であり、そのような不快な連想でおぞましく思う読者も少なくないのである。
 毎日新聞には、多くの人に不快感を与える忌まわしい表現を避ける報道者としての良心はないのだろうか。

 それは置くとして、少なくとも、この下りは学術的論議には、場違いな発言である。提唱者の名誉のために、毎日新聞は、この部分を割愛すべきであったろう。何しろ、学術的な主張に於いて、無用の冗語だからである。

 定説を乗り越えるためには定説の語彙に通暁しなければならない。定説の深意がわからずに、勝手な思い付きで言い分を言い立てるべきではない。

*自家製「曲解」観
 記事の後半に向かい、提唱者は、殉教者気取りで、学説審査の場で経験したダメ出しを忌み嫌っているようだが、解釈が合わないのは、自分の曲解か、相手の曲解か、双方の曲解か、冷静に判断し、克服すべきもののように思う。
 冷静に言うと、当時、キッチリ裁定しなかったために、議論の敗者が自覚せず、自身で是正しなかったので、15年後の今に至る「恨み」が残ったのである。

*論証の常道
 小生の素人考えでは、平城京時代には、法制が整い文書行政が確立していたはずだから、日本の帝都としての「平城京」に、公式に第十条が実在していたのなら、計画時点から平城京運用時までの一世紀近い期間に、何らかの文書記録が残ったはずである。あるいは、現場に荷札などの木簡が廃棄されたかも知れない。現場付近に詰め所のような仮小屋を建てたかも知れない。
 提唱者は、一件でも、そのような(文書)記録を提示する必要があったのである。
 「第十条は存在しなかった」というのが、多数の権威者の意見、「定説」である以上、十分な証拠で、その「定説」を覆すのが提唱者の務めと言うべきである。

 提唱者が、歴史学の定説は、最新の調査成果を取り入れて、不適切な点は是正すべきだというのは、(用語の不具合を補正すれば)一般論として耳を傾けるべきであるが、立証責任が果たされていないという多数の意見で却下されて17年間か経過する間、このようにうじうじと恨み言を唱えるだけで、ひたすら自説の風化するに身を任せているのは、一部古代史論に見られる「新発見」待ちの神頼みに似ているように見える。勿体ないことである。

*奈良市教育委員会「発掘報告書」のなぞ
 因みに、記事には、肝心な点が書かれていないのだが、「奈良市教育委員会」がどのような審査を経て、提唱者の「思い付き」を支持したのかということである。当記事を公開する際には、提唱者の主張の裏を取るために、取材すべきではなかったかと思われる。市の公費を、学界で認められていない異説の振興のために投じたと言われないために、審議したはずであるから、当時の議事録を公開すべきではないか。

 世上、地方公共団体の遺跡発掘の報告書に於いて、未検証の「思い付き」が、貴重な公費を費消して刊行されることが珍しくないと聞いているので、本件がそのような風評に属さないなら、提唱者の言い分を無批判に押し立てるのではなく、毎日新聞社として当該報告書の書評を収録するなり、読者に対して論議の経緯を明らかにするのが、毎日新聞読者に対する責任と思うのである。

*定説派の卓見
 提唱者自身の認めるように、第十条部分が平城京仮設段階で棄てられたと見れば、「常識」に何の不都合もないように思える。

 『平城京「十条」の発掘 定説動かず「九条」 奈良大教授・渡辺晃宏さん』と題した囲み記事で、定説派の見解が丁寧、かつ簡潔、平明に述べられているが、提唱者への配慮で明記を避けたと思われる深意は、「学問上の議論は論議するものであり、裏付けのない思い付きに感情的に固執するべきではない」と言うことのように思うのである。
 渡辺氏は、遺跡が当時のものと想定し、但し、一時何らかの工事が行われたと好意的に推定していて、遺跡の意義を否定しているのではないのである。

 当ブログ筆者には、今回の報道に於いて、毎日新聞担当記者の見識眼が、随分撓んでいるように見えるのであるが、これは、語彙の鬱屈も含めて、ジャーナリストに普遍的なものであり、別に個人批判しているものではない。ただ、毎日新聞社としては、報道の倫理にそっているかどうか、今一度監査が必要ではないか。

以上

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