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2021年7月30日 (金)

私の本棚 相見 英咲 「魏志倭人伝二〇〇〇字に謎はない」 最終 13/30

 講談社 二〇〇二年一〇月刊
 私の見立て☆☆☆☆☆   詐欺である                               2018/04/12 追記 2019/07/22 2021/07/30

*最古談義
 最古とは「現存最古」の意としても、本書ほどの論考の起点として、まことに粗雑でずさんである。
 当方理解の限りでは、全巻に近い刊本として、どちらも南宋初期のほぼ同時期に木版印刷で刊刻された「紹興本」と「紹凞本」がある。相接して、大金と多大な労力を必要とする刊刻事業が二度行われたということは、それぞれ、その時点で重大な意義を皇帝に認められたということであり、素人目にもどちらが早い、遅いという単純な問題ではなく、その真価を問うべきと思われる。

 当方の聞きかじりでは、書局本は、大半を紹凞本に基づく「百納本」(本書に説明はないようである)に基づいているが、主監が原本の誤りと判断した文字には、権威を持って修正を加えていると聞いている。
 だからどうしたという事はない。中途半端な説明は、素人を含めた読者にとって意図不明と言うだけである。

 「最古」以前の刊本写本が現存しないのは、自明の冗句であり、字数稼ぎは感心しない。

 因みに、それ以前の資料も、断片、切れ端は残っているようであるから、不用意な断定的言葉遣いには注意したいものである。
 続いて、若干の誤字例(と著者が見た)が列記されていて、出典は、当然、書局本であろうが、著者が原典を動揺させたままなので、必ずしも明解でない。
 著者は、ここで、有効な根拠を示さず誤字としているが、書局本が、誤字と確定しても訂正しない、不正確な資料と主張しているのだろうか。なんとも、場当たりで筋の通らない話である。いや、それは、ここだけではないが、指摘しないと是認したと解される懸念があるので、書き足している。

*書局本の権威と限界
 なお、後段(p185)に「不意打ち」で、紹興本・紹凞本と列記される部分が登場するが、著者が提起した紹興本に対して、紹凞本の位置付け、両者の関係、及び、書局本、さらには、百納本との関係は語られていないから、不案内な読者は困惑するのである。
 著者は、何か、世に出回っている紹凞本、百納本を嫌う決定的な理由があるのだろうか。好き嫌いレベルでも、合理的な理由があれば、世間は耳を傾けるのである。

 また、著者が書局本(一九五九、一九八二年版)を所蔵していて、これを座右の宝典として、依存しているのなら、とことんその方針を貫くべきではないかと思うのである。書局本依拠との著者の抱負は徹底せず、好き勝手な修正をしながら、いたずらに書局本依拠と謳い上げているようである。それにしても、掲載されているテキストを検証するために書局本を購入して確認する気にはなれないので、迷惑としか言いようがないのである。
 何にしろ、論証の手順としては、まずは、基準史料を原点として定めることと考える。原典に対して、史料批判を加えるなら、まず、批判の根拠史料を批判しなければならないである。原点が動揺しては、議論ができないのであるが、どうも、世間には、原点の上にモルタルでも塗りつけて、原点を偽造するのが流行っているようである。著者は、そのような事例を散見して批判の筆を執ったようだが、原点知らずの原点論に陥ったようである。

*原点設定の提案
 また、実際問題として、二千字の資料で、各史料の異同は、まことに限られているから、容易に、現物を閲覧して確認できる紹熙本を、当代「倭人伝」論の原典とすると言うのが、古田氏の「原点」設定であったと思うのである。これを、「紹熙本」神聖不可侵宣言とみて、非難を浴びせた複数の論客があり、古田氏が、応答を通じて姿勢を硬化させたと見えるのが、近年の「倭人伝」論争に深い溝を刻んでいるように見える。
 しかし、先に確認したように、各本の内容に異同は限られていて、例えば、懸案となっている「邪馬壹国」は、すべての史料で共通して、「邪馬壹国」であって、「邪馬臺国」は、言うならば、架空の存在なのである。
 ぼつぼつ、無意味な史料論議は、論争から退役した「レジェンド」として「史学殿堂」に退いていただいて、実のある論争をすべき時が来ているのではないかと思うのである。

 論じられているのは、原点の設定ではなく、古来、読み下しや現代語訳と称して、史料の文字を書き換える二次創作を、読者に押しつけたことから発しているのである。
 いや、それは、大抵の論者がどっぷり浸かっている泥沼であるから、原典読解力のない著者が、二次創作を原文と誤解してしまうのも無理ないと言える。

                      未完

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