私の本棚 相見 英咲 「魏志倭人伝二〇〇〇字に謎はない」 最終 14/30
講談社 二〇〇二年一〇月刊
私の見立て☆☆☆☆☆ 詐欺である 2018/04/12 追記 2019/07/22 2021/07/30
3.<末羅国起点の放射行程>説(p62)
著者は、山積する道里論の諸説を、(1)行程は、順次進むと書かれているとする「連続行程」説と、(2)行程は、連続行程を辿っていって、倭国内の一国で、そこが起点となる放射行程が書かれているとする「放射行程」説、の二派に峻別されるという。一刀両断で威勢はいいが、大抵、論議の要点を廃棄する暴挙になっている前例に学ばないのだろうか。
確かに字義から言うと「派」とは、河川の支流のことであるから、遡って流れが分かれたら、両派は二度と会うことは無いのである。また、それぞれの流れの水温や不純物が異なれば、両派が合流しても、密度が異なれば容易に混じり合わないので、仮に一度分かれて後に合流しても、直ちに一体化することはなく、遙か下流まで見分けがつくものである。
比喩を持ち出すについては、この程度の裏付けの用意が必要なのである。
著者は、考察課程の説明を後回しにして「放射行程」説が正しいと断じる。珍しく、結論を提示して、続いて詳細に説明する良心的な書き方になっている。これは、一旦は、褒めるしかないのである。
*榎一雄氏の<伊都国起点>説(p65)
ただし、明解なのは一時で、また混沌としてくる。著者は、放射行程説は、榎氏の「伊都国起点」説が問題であると言い切って、「問題」の意味も「解」も明らかにしないまま論を進める。言ったばかりで転進するのである。そして、読者は、次段の迷言に阻まれる。
*榎説の問題点(p67)
榎氏の高名な説は、連続行程部分から放射行程部分に移るのは行程の書き方が異なることを手掛かりとしているが、著者は、これは、倭人伝記事を読めば、事実(傍点付き)として確認できるので、<事実>ととらえよう、と意味不明の文字遊びの後、問題は、と意味不明の言葉遣いで、<事実>が、伊都国起点の放射式行程説の根拠となっていることにあると断罪する。何のことやら、断罪を理解する手掛かりがない。
意味不明の先触れに続いて、この断罪に続いたのが、意味不明の比喩である。何が、「事実」なのか、なぜ著者が「事実」を知り得たのか、なぜ、先賢に対して、知識、学識が、断然足りない著者が、「問題」、ここでは、「難点」、を突きつけて、解答を迫るのか、奇々怪々である。
*推理小説(ミステリー)の秘儀(ミステリー)(p67)
「三・四世紀の中国人にとって、「倭人伝」は推理小説ではなく、旅行案内文書に過ぎないのだから」と言い立てるが、当時、推理小説は無かったから、この発言の前半は、当時の人に無意味で、後世人の自己満足である。
また、魏志が知られたのは、三世紀後半であるが、それ以前の三世紀人は、倭人伝と言われても、何のことかわからないのである。
ついでに言うと、当時、旅行案内文書などあり得ない。もっとも、存在しない以上、あれば希少、かつ貴重だから、「過ぎない」と言うのは、時代錯誤の妄言である。
というように、現代東夷蛮人の世界観で、三世紀の中国人の著作を論ずる愚が繰り返されている。
倭人伝で描かれる東夷の国は、中華文明にとって未曾有大発見であるから、その地の案内は、現実に書かれたとすると、先例がなく、その意味でも「過ぎない」などと価値を卑しめるべきではない。後世、中原世界の仏僧が、天竺に仏典を求めた長途の旅に出て、旅行記を残したのは史実であり、代表するのは、後世の東晋代法顕の「仏国記」、唐代玄奘の「大唐西域記」であるが、天竺行程の記録として現存しているのは、二書だけではない。「倭人伝」を、そのような聖地探求の渾身の旅の旅行記の先駆者になぞらえるとしたら、まずは、絶大な時代錯誤であり、続いて、途方もない見当違いである。ここは、「正史」の巻末の結句であり、大旅行記の出る幕は無い。
これは、著者の見識を糞土に落とすものである。まして、比喩の絵解きが、完全な見当違いの大失態で、絵解きになっていないのは笑うに笑えない。
*比喩の空転、誤用、誤解釈(p68)
常套句、つまり、常用比喩による決め言葉は、書き手にとって良い気分だろうが、自身の稀代の決め言葉が通じるのは、身近の言語空間に限られ、説明抜きで見知らぬ第三者に向かって放つと、空を切ったり、見当違いに波及したりしかねないから、濫用を戒めたいものである。
*行程記事の出だしが問題(p70)
ここで、「問題」は、出題、課題の意味のようである。
「行程記事の出だし」と突然言い放っているが、見て取れる「記事の出だし」でなく、各国記事の冒頭のようである。現代語訳が必要な名文である。
未完
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