私の本棚 相見 英咲 「魏志倭人伝二〇〇〇字に謎はない」 最終 5/30
講談社 二〇〇二年一〇月刊
私の見立て☆☆☆☆☆ 詐欺である 2018/04/12 追記 2019/07/22 2021/07/30
*第一章
1.邪馬台国論争と「倭人伝」の正しい読み方(P12)
「魏志倭人伝」は、冒頭で紹介済みだから、改めて「仮に」は、不首尾である。「忘れてはならない」と二重定義に力むのは、まことに混乱している。著者は、自著の用語提議を読み返さないのだろうか。不審である。
*私撰論の見当違い(P12)
三国志を、陳寿の私撰史書と無造作に書いているが、官命で着手した可能性が高いから、これは風評に過ぎない、と言うか、筆者とその依存先の無知による誤解である。
先行王朝(曹魏)の国史を、私的に編纂することは大罪であり、官命の裏付けがなければ、洛陽に収蔵されていた後漢・魏朝公文書を参照した史書編纂など「できない」からである。また、史書編纂に要する人材、資材、資金は、官命無しには調えられないのである。
陳寿は、政府高官や大富豪の道楽でないから、私的に、つまり、道楽、私費で「三国志」を編纂したわけではない。公職に任じられていた時期は、行動の自由がなかったから、気ままな史書編纂はできなかったのである。
この点、当然なので、余り論じられないが、事情に通じない論者は、好んで暴論を構えるのである。
その後、母親の不幸や晋朝政争で、最終的には官職を解かれたようだが、魏国史編纂の使命自体は解かれていなかったようであり、依然官命のもと、編纂を続けていたように思う。言うまでもないが、かりに私撰であっても、晋朝皇帝に上申、嘉納され、後年「正史」に列された「三国志」の価値は、いささかも減ずるものでない。
それにしても、つまらない難癖は、言っている当人への評価が下がるだけである。ご自愛いただきたい。
*解けない「邪馬台国論争」問題(P12)
続く(目次にない)小見出しでも「邪馬台国論争」と書いているが、「邪馬台国論争」は、初出語である。不意打ちは不用意である。大事な著書を、衝動的な書きぶりで、自ら貶め、それを自覚しないというのは、悲惨であるし、そのような杜撰な著作を買わされる読者も、たまったものではない。
「論争」は解くものではない。とんだ、見当違いである。「問題」は、時には、学習者の理解度を試す「課題」であり、時に、ものごとの破綻を示す非難でもある。意味が不定の言葉の乱用は、差し控えるべきである。(読者がどの意味で理解するか、不確かなのである)
*倭人伝研究の歴史(P12)
「倭人伝」の研究はもう二〇〇年をこえる歴史があると言うが、いつ始まったか不明では、読者には確認できない。
私見では、十八世紀に「倭人伝」の「邪馬壹国」を「邪馬臺国」の誤記と決め付けて自著で唱えた松下見林の放言以来三百年である。立証に失敗している説を教義として崇めるのはいい加減にして、「除籍」時期を考えるべき「遺物」と明言すべきと思うが、この世界ではまだ生きている。当世言葉で言う「レジェンド」である。新説への無批判追従も感心しないが、ひび割れた骨董品を、修復せず崇める趣味は、感心しない。
それにしても、「倭人伝研究」と「邪馬台国論争」は、定義不備の上に互いの関連も不明確である。本書に相応しくない、不用意さである。
*「大問題」論(P12)
続く「邪馬台国の所在地をめぐる論争」と「邪馬台国論争」の関係がわからない。「大和朝廷」(倭人伝に記載なし)が「大問題」と結びつくのが唐突であるが、「大問題」とは、単なる謎なのか、致命的難点なのか。問題の大きさは、何で測るものなのか。不思議である。
古代史の「論争」は、大半が、混乱した世界観の交錯であり、用語の意味があやふやなために、攻防が空を切っているのだが、そんな中の参入に際して、やたらと強弁を振るっては、議論の振興にも沈静にもならない、まるで、子供の喧嘩に、また、子供が飛び込んでいるのである。
そして、論争自体は、「要するに」「大和説」、「九州説」の二択とするが、なにが「要するに」なのか、混乱した本書から読み取れるはずがない。「大和説」すら「プロローグ」に説明がなく、松本清張「畿内説」との関連も不明である。しゃれにならない粗忽さである。
こんなふうに、著者の「議論」は、個人的な、つまり、不出来で異常な言葉遣いが、定義も解題も無しに蔓延、暴走していて、不明確で不安定、つまり混乱しているのが理解を妨げ、以下巻末まで一貫している。
いかに、紙数を積み、多大な言葉を費やしても、肝心の言葉遣いが乱れていては、読者に意図が伝わらない。
それとも、「一貫して乱れている」のを尊いとすべきか、苦笑ものである。
未完
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