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2021年7月25日 (日)

新・私の本棚 尾崎雄二郎 敦煌文物研究所蔵 『三国志』「歩隲伝」残巻に寄せて 2/3 追記

季刊邪馬台国第18号 (1983年冬号) 2018/09/18 2019/03/09 補充 2020/05/19 2021/07/25

*些細だが重要な差異
 現行三国志「呉志」は、引用文の後に、周昭が呉書を編纂したと書いた行があるので、この一行が移動したというものの、行数変動はなく、実質的に同一内容で、私見では裏打ちした巻物でも、部分的に剥がした上での差し替えは可能ですから、「遺書」の原本が、三国志「呉志」の抜き書きに、私家本とする際に、この一行を移動したという可能性も、無視できないと考えます。
 この辺り「呉書」と呉志の原史料と推定される「呉書」が交錯しますが、氏は、この点に触れていません。

*西域異本 伝家の秘書
 以上、「遺書」は呉志異稿の断簡であり、当時、西域辺境に呉志異本が存在した証しとも見えます。ただし、現地に当該巻の全写本があってね一部断簡が残存したとの確証はないのです。まして、呉志全体、果ては、三国志全巻の写本があったとも思えないのです。
 なお、歩家などの関係者子孫が、抜き書きを保有した可能性はあります。確たることは判明していないのです。おそらく、歩隲伝写本が、歩家の末裔の家宝として珍重されていたのではないでしょうか。

*大いなる余談 太平御覽所引魏志
 ここで、尾崎氏は、該当部分を「太平御覧」の引用する「呉志」と比較して、現行本の記事がこれに近いと考察し、そこから余談に逸れます。
 氏は、更に、御覧所引の魏志倭人伝記事を、翰苑所引の魏志、魏略記事と比較して考察を加えていますが、当記事の本題を更に外れるので、批判を加えないのです。
 と言うことで、矢崎氏は、脱線したまま、走行を続けて、随分走ってから、復元しています。季刊「邪馬台国」誌でも、論考ならぬ随想であれば、余談が繁盛するのも、許容されるのでしょうか。とは言え、脱線が人ごとと言えないのは、次回とします。

*遺書論回帰、慟哭
 最後に、尾崎氏は、本論に還って「遺書」は(氏が仮想した)善本の一部であり、幾度かの校正によって、かかる善本が現行本に不当に駆逐されたと大いに悲憤慷慨したと見えます。
 この種の議論は、文献論議でしばしば見かけるとしても、仮想善本への過度の感情移入と擬人化は、学問の客観性を阻害するので厳に避けるべきと考えます。
 仮に、氏の思考を辿るとしても、いずれかの時期に生成して、遂に現行本に採用されなかった異稿は、言うならば、自然の摂理で淘汰され、帝室保存の原本が適者として生存したのであり、無用に思い入れすべきではないと考えます。まして、そのような異稿は、三国志編者陳寿が、確定稿から割愛したものであり、三国志を論ずる際には、些事に過ぎないのです。文献考証の本筋を見失わないようにしていただきたいものです。

 案ずるに、世上の議論として、例えば、「邪馬臺国」と書かれた異本が一例でもあれば、それを論拠として、目障りな邪馬壹国説を駆逐できる可能性が否定できないのに、三国志なる史料二は、ことのほか異稿が乏しい/無いために、「陳寿オリジナル」(?)を誰も見ていないとか、この世に存在しないとか、反則攻撃したり、途中改竄を憶測したりしかできないことに苛立っていると誤解されない口ぶりです。

*呉書引用の怪 
 氏が、三国志「呉志」と遺書に抜き書きされた「呉書」の区別を曖昧にしているのは不満です。

 陳寿が、呉志編纂の際に、かなりの部分で「呉書」を忠実に引用した事は確実に思われます。陳寿の見識では、東呉亡国の際に、晋朝皇帝に献呈された東呉 の公式書である 「呉国志」、つまり、周昭「呉書」の完成本は、東呉史官の畢生の著作であり、三国志に収録するのが、自身の使命と感じたはずです。
 とは言え、あくまで、三国志は、各国国志の寄せ集めでなく、天下の形勢を陳寿が編纂した史書の一翼との建前なので、志の呉書引用部にいちいち「呉書に曰」と書いてないのです。とすると、なぜ、ここだけ「呉書に曰」とする異稿があるのか、不思議です。

 そこから始まる周昭小伝の意義については、当批判の枠外なので別稿とします。

                              完

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