新・私の本棚 小畑 三秋 『箸墓近くに「卑弥呼の宮殿」邪馬台国は纒向か』2/2
産経新聞電子版 「THE古墳」(隔週掲載コラム)
私の見立て ☆☆☆☆☆ 虚報満載の提灯持ち記事 2021/10/27
*創作史観の悪乗り
「纏向に君臨した統治者が、日本列島を統御していた」というのは、素人考えの時代錯誤の思い付きであり、産経新聞独自の新説発掘/創作と見える。
遠慮なく言うと、「ファクトチェック」無しの「フェイクニュース」とされても仕方ない記事である。倭人伝に「大王」はなく勝手な造語と見られる。
かなり専門的になるが、『「大王」の「都」』も勝手な造語である。当時、中国の厳格な規則で、文化に属しない蛮夷に「都」を許してないと見られるからである。いや、後に自称したかも知れないが、三世紀後半概念では不用意と言える。要は、日本語の「都」は、中国制度の「都」と食い違っているのである。時代の異なる言葉をまぜこぜにして読者を煙に巻くのは悪質である。
もちろん、担当記者の自作自演とは思えないが、誰の知恵かは知らないが、聞きかじりの話を、無批判に物々しく取り上げるのは、報道陣として、およそ、最低の罰当たりのように見える。記者の評判を地に落としているようで、もったいない話である。
*斜陽の焦り
直後に、産経新聞としての報道が続く。『この大王の都が、すぐ北側に広がる纒向(まきむく)遺跡(同市)で、邪馬台国の有力候補地。平成21年に見つかった大型建物跡は「卑弥呼の宮殿か」と話題を集め、畿内説が勢いづいた。昭和46年に始まった同遺跡の発掘は今年でちょうど50年。長年の調査の蓄積が、古代史最大の謎解明へカギを握る。」全国紙の(無言の)批判だろうか。
同記事末の総括とは裏腹に、狭い地域に投入された多大な費用と労力を支えてきた集中力に敬服するものの、そのためにかくの如く非学術的なプロパガンダを必要とする「王者」の悲哀を感じる。発掘指揮者の「成果が出るまでは、全域を掘り尽くす」意気に、全国紙が無批判に唱和するのは感心しない。
学術分野でも、国家事業は成果主義を避けられないが、そのために、虚構と見える(未だに実証されていない)「古代国家」像を担いでいるのは、傷ましいのである。
近来、大相撲の世界で長く頂点を占めた不世出の大横綱が、頽勢に逆らって勝つために品格放棄の悪足掻きした例があるが、素人は、至高の地位に相応しい成果が示せないなら、潔く譲位するべきものと思う。「日本列島」には、意義深いが資金の乏しい発掘活動が多い。資金と人材を蟻地獄の如く吸い寄せる「纏向一点集中」に、いさぎよく幕を引くべきではないだろうか。
横綱には、厳格なご意見番があるが、発掘事業には、止め役がいないのだろうか。
要するに、「公的な資金で運営される公的研究機関は、研究成果を、すべて国民に還元する義務を負っている。」大学は、私学といえども、「義務 」を負っている。
各機関の役職員の給金は、銀行口座への振り込みだろうが、それは国民の税金であり、銀行や機関首長が払っているのではない。
関係諸兄は、誰が真の顧客であるか、よくよく噛みしめるべきではないか。
*東京と比すべき大都会
段落批評の後、『東京のような大都市だった」には唖然とした。担当記者が東京を知らないわけはないから、地方在住の読者を見くびってはないだろうか。この比喩は、奇妙奇天烈で当て外れである。纏向遺跡に推定される人口、面積などのどこが『東京のような』だろうか。どうか、窓を開けて、窓の外に広がる現実世界に目覚めて欲しいのである。産経新聞に編集部や校閲部はないのだろうか。
*まとめ
当記事が担いでいるのは、当該組織の生存をかけた渾身の「古代浪漫」著作物だろう。古代史に個人的浪漫の晩節を求めて、見果てぬ一攫千金を追う姿を、率直かつ適確に批判して覚醒を促すのが、全国紙の報道の本分ではないだろうか。
それとも、産経新聞は、俗耳に受ければそれで良しとする「報道商売」なる浪漫を追いかけているのだろうか。
以上
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