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2021年12月 9日 (木)

新・私の本棚 5 船迫 弘 季刊 「邪馬台国」 第35号 「里程の謎」 再 1/3

5 里程から見た邪馬台国         船迫弘
私の見立て ★☆☆☆☆ 疑問山積  2019/01/28 追記 2020/10/07 補充 2021/12/09 2023/06/11 2024/06/17

〇序論
 編集部の惹き句とは言え、「豊富な資料」の触れ込みで、実際、二十㌻の大論文ですが、論理交錯で難儀します。原点たる倭人伝から読みなおす趣旨と見えますが、それにしては、東治」を「東冶」と「改訂」するなど、未検証の原文改訂行為は不首尾です。当世流行りの改竄説に似ていますが、原著作者の意に反した改訂は、改竄に等しいのです
 古代の説客が、論法の常道とした、「出会い頭のはったり」のように見え、学術の世界には似合いません。
 また、本稿では、論者の里制観が動揺し、読者の筋の通った理解を困難にしています。

 またまた、図1と作図された労作の「倭国の概観」は、「普通里」に従って韓国、倭国を大きく描いていて、いかにも、論者の歪んだ世界観を可視化して見え、それを期待してか、「倭人伝里は誇張」としています。

 要は、氏の個人的な理解を、錯誤、錯視かどうかの検証抜きに、いきなり図示しているのであって、陳寿が、倭人伝として提示した「文章問題」の解として、意義のある図解ではありません。結局、氏の抱負にかかわらず、氏の理解/妄想を評価する手段にしかならないのです。

 またまたまた、先に触れたように「会稽東冶」が妥当としています。当然ながら九州島内に女王国との表現です。

〇多桁算用数字~不滅の迷妄
 論議の絶えない帯方郡~狗邪韓国間の「郡狗行程」は、なぜか沖合遥かの無寄港と図示されていて、それを七千余里ならぬ7,000里としています。誤解の蔓延は、もったいないことです。

*場違いな大型船の幻想
 そのような行程は、寒風や雨風を遮る甲板と船室があって、中国人の食事には不可欠な「竈」(かまど)と水がめを備えた厨房のある、つまり、相当大型の帆船でなければ実行不可能ですが、そのような大型の帆船の存在とそれを支える海図、水先案内などの存在も問われていません。

 南方地域には、帆船自体は存在したでしょうが、帆船回航には、帆が破損したときの貼り替え帆布の備えが不可欠であり、当時、東夷には、麻布や麻縄がなかったので、無事往来することが求められる下賜物満載の船は、乗り入れることはできなかったのです。

 丁寧に説明すると、当時、黄海で行われていたのは、短期間で向こう岸に着く、いわば渡海船であり、手漕ぎの上に随分軽装備だったので、半島沖合の黄海を南下する長丁場は、到底こなせなかったのです。と言うことで、それまでは、港港を送り継ぐ、小船の駅伝船の世界だったのです。
 未検証どころか、検証不能の思い込みに過ぎないのですから、氏ほどの論者にしては、不用意です。

 「海岸にしたがって」と俗解されるのに反した、沖合遥かの無寄港航海の超絶技巧の無法解釈は別として、ここ以外も、現代人には当然とは言え、古代史学では「非常識」で誤解を招く算用数字多桁表示で、文献解釈に際して、的外れが露呈していて残念です。
 古代人の世界観の中で、概数を取り扱う数字計算は、里程、行程道里の理解の根幹であり、見過ごされているのは、毎度の事ながら大変残念です。

〇一里推定の徒労
 論者の「倭人伝」里の考察は、ほぼ一貫して、倭人伝」の一里は百㍍程度、韓伝の「方四千里」も同様としつつ、頑として「誇張」と見ています。何に対して誇張なのか、根拠不明、意味不明です。独り合点や仲間内の決まり事は、ご自分一人にとどめて、第三者を納得させられる論証が求められているのです。 

 帯方郡官吏たる魏使が、自郡里制はもとより、海を隔てた倭国里制も知らぬはずはなく、まして、使節として現地視察の後には、現地を実見して正確な認識をしたはずです。ただし、そのような里制は、魏朝の公式記録である倭人伝には、一切明記されていないのですから、史料の根拠は無く、倭人伝の里程、つまり、行程道里には、そのような「里制」は、比較参照できないのです。
 また、論者が、「倭人伝」里制が、一里百㍍程度と納得したら、倭地の里制も、また適確な里数と納得でき、つまり「誇張」など存在しない事になるはずです。
 にもかかわらず、論者が、ご自身の誤解を露呈した冒頭図に固執し撤回しないのは、合理的ではなく、また、ご自身の方針に反するのです。

〇還らざる分水嶺
 ここで回心するなら、冒頭図は自身の錯誤を露呈していると気づいて、撤回するでしょう。古来、「過ちを改まるに憚るなかれ」と言いならわしています。まして、推敲段階の改稿に憚ることなどまるでないのですが。

 引き返せなくなる前に、経過を総括して、行程続行の当否を自問すべきなのですが、そのような「先見の妙」と「引き返す勇気」を持つ人は、ごく希です。

*行きすぎた分岐点 2023/06/11
 初稿時点では、まだ、模索段階でしたが、遅ればせながら、大事な誤解を指摘しておきます。
 「倭人伝」の道里行程記事は、正始魏使の現地報告をもとにしたものではなく、景初早々に楽浪/帯方両郡が、魏明帝の指揮下に入った時点での魏帝の認識であり、それは、遼東郡太守公孫氏が残した東夷身上書に基づいていたのであり、それが、魏朝公文書に残されたので、それが、陳寿の依拠した「史実」だったのです。ですから、そこには「誇張」はないのです。
 「倭人伝」の解釈の最初に、この点を認識しないままに進んでいる論義は、一律、「行きすぎ」とも見なければならないのです。

 三世紀当時の中国中原の常識を知らない現代東夷の素人考えで、陳寿の編纂を律してはならないのです。

                               未完

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