私の本棚 3 岡本 健一 「邪馬台国論争」 改頁版 2/8
講談社選書メチエ 1995年7月刊
私の見立て★☆☆☆☆ 見当違いの強弁が空転 2014/05/17 補追 2021/12/23
*紹熙本降臨
以下、あくまで小説的な推測ですが、このような異例の事業が実行できたのは、紹凞年間、上皇として実権を把握していた南宋第二代孝宗の強い支援を受けたためではないかと推測します。
孝宗は、宋朝皇族とは言え、皇位継承に無縁の太祖趙匡胤系子孫でした。北宋皇帝の系譜は、創業者である太祖の逝去の際に、弟である太宗趙炅が、太祖の息子である皇太子を押しのけて皇位を嗣いだことにより、以後太宗系が正統となり、太祖系の子孫は長く傍系に追いやられ、冷遇されていました。
北宋亡国の中、有力皇族男子でただ一人江南に逃れ、南宋を再建した初代高帝趙構も太宗系でしたが、いろいろな事情があって、あえて、太祖系の趙趙昚を養子に迎えて後継者としたのです。いや、太祖京皇族は、中央から遠ざけられていて、しかも、皇族名簿に載っていなかったので、異民族軍の皇族狩りを逃れたと見えるのです。
かくして、紹興三十二年(1162)に、南宋皇帝位は、高帝から新帝趙昚に譲位され、翌隆興元年(1163)に、ほぼ二百年ぶりに太祖の正統を承けた皇帝として就位したのです。
*考宗の野心
このようにして皇帝となった孝宗は、宋王朝正統の復活を世に知らしめる野心を持ってして、万事に先代皇帝の単なる継承を超えた意欲的な統治を行いましたが、その一環として、高帝の事業とした紹興年間の三國志復刊、「紹興本」が、最善の写本を基礎と志したものの不完全であり、言わば誤って刊行された正史三國志であることから、これを咸平本原本により近い善本に基づく正しい刊本を刊行する事業に対して決裁を下したのではないでしょうか。
国家事業を行うためには、臣下の稟申に対して皇帝の裁可を得る必要がありますが、紹凞年間は、上皇が最終決裁権を持っていたので、まずは、上皇の内諾を得てから正式に稟申し、無事上皇の裁可を得たはずです。
関係者は、刑死も恐れぬ上申への上皇の支持に篤く感謝したはずです。
*考宗没後の展開
ところが、刊行を目前に控えた紹凞五年(1194)に孝宗が急逝し、権臣が病弱を理由に第三代光宗を退位させて寧宗趙炅を擁立し建元となりました。
このような事態の急変はあったものの、孝宗が強く支持した三國志刊本は、あくまで、孝宗の偉功として、紹凞年間に決裁が下りたことを込めて、「紹凞本」の名目で刊行されたように見えます。
以上、空想も交えて推定した経緯のほかに、紹興本に続いて紹凞本が刊行された合理的な理由が考えられないのです。
南宋により刊行された三國志紹凞本刊本(印刷原本)は、南宋統治下の江南各地に流通し、原本散逸の可能性は大幅に低下したのですが、それでも、今日、紹熙本善本は、元、明、清の歴代王朝の興亡に伴う大陸の動乱から隔離された日本での蔵書を利用しなければならなかったのです。
〇道里論~早々の自沈
以下、著者の見識(の狭隘さ)をうかがわせるのが倭人伝道里論です。著者は、賛否の表明以前に、道里の合理的な把握はできていないようです。
その証拠に、反対論として「数学的なトリック」、「欺瞞(錯覚)」、「不確定」、「誇大化」、「孫悟空の如意棒」と耳慣れない、痛々しい言葉を募らせて、敵を罵倒するだけで、倭人伝道里が、精々、一里100㍍に及ばない程度の「短里」で書かれているという「短里説」が不合理であるとする論拠は一切示されていないのです。これは、論理的ではありません。むしろ、窮鼠の悪足掻きを思わせます。
未完
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