私の本棚 3 岡本 健一 「邪馬台国論争」 改頁版 5/8
講談社選書メチエ 1995年7月刊
私の見立て★☆☆☆☆ 見当違いの強弁が空転 2014/05/17 補追 2021/12/23
*コメント
著者は、文献解釈、土地勘に優れていると自負しているようですが、「地理観が、誇大化」とは、乱れた日本語です。ここは、「陳寿や当時の中国人の地理観」など特定困難なものではなく、現地と交渉のある帯方郡官人の地理観、魏使の一員で、現に、方角や道里を記録していたと思われる書記官(軍事探偵。おそらく、半島に土地勘のある帯方郡官吏)の地理観、いわば、地域専門家の見識であり、頭から馬鹿にしたものではないのです。書記官は、日誌上に現場の方角、方位、歩測を日々記録し、書斎暮らしの井蛙が数字遊びの空論をもてあそんでいる「安楽椅子探偵」とは違うのです。
ここで、誰も主張していない「ピンポイントの正確さ」(意味不明瞭なカタカナ語)を揶揄しても、犬が自身の水鏡に吠えかかっているようなものです。最大の注意を払っても、当然、歩測、目測の誤差や誤記は自明です。
まして、「アバウト」などは、程度の低い記者用語(意味不明瞭なカタカナ語)であり、ここで古代史論に持ち出すとは、愚劣の極みです。
*「アバウト」の怪談
著者は、突如「あのアバウトな 日本列島図」などと勝手な言い方と「日本列島の正確なイメージ」と茫漠たる巨大概念で敵方の撹乱を計っていますが、目くらましにも何にも、具体的に何を指しているのか趣旨不明で、読者に伝わらないのは、いかにも拙劣です。三世記に列島図などあったはずがないのです。
*語彙の混乱、概念の混乱
たとえば、全国歩測で描き出した伊能忠敬の日本全図のようなものが、三世紀当時に存在しなかったことは明確ですが、倭人傳冒頭に書かれている「倭人は帯方郡の東南方にいる」(倭人在帶方東南)とした倭人に対する「イメージ」(漠たる地勢観か)は、実用上十分なだけ正確であったと理解できます。
少なくとも、本書著者のように、錯乱した地理観念を前にして書いたとは見えないのです。陳寿の歴年の考察の成果も、神のごとき著者の自負する明智にかかると、児戯に等しいものと見くびられたようです。
この漠たる「イメージ」(意味不明瞭なカタカナ語)に対する確たる反証の「イメージ」(意味不明瞭なカタカナ語)はあるのでしょうか。それにしても、「イメージ」とか「アバウト」とか、ガキ言葉連発は、著者が論争を維持する集中力の喪失を思わせ、痛々しいものがあります。
北部九州説では、
・邪馬台国は、伊都国から約1300里、つまり、わずか「末盧―伊都国間500里」の2.6倍の距離にある
・ 2000里 > 1300里 > 1000里
(対馬―末盧間) (不弥―邪馬台間) (壱岐―末盧間)
だから、(不弥―)邪馬台国は末盧―対馬間を半径とする円周内に含まれる。
これらの点から、九州論者は白鳥庫吉いらい、「北部九州内(せいぜい中部九州以北)に邪馬台国はある」としてきた。
一見、もっともらしい論理だ。まるで孫悟空の如意棒のように、1300里が100㌔㍍前後に縮んだ。しかし、先の前提が崩れれば、たちまち瓦解するほかない。
未完
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