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2021年12月 9日 (木)

新・私の本棚 3 西岡 光 季刊 「邪馬台国」 第35号 「里程の謎」 再 1/1

3 「誇張説」にもとづく邪馬台国への旅程 西岡光
私の見立て ★☆☆☆☆ 疑問山積    2019/01/28 追記 2020/10/07 補充 2021/12/09 2023/06/11

*前置き
 「はじめに」として、「『魏志』「倭人伝」が、日本古代史を考える際の客観性をもつ有力な史料」と書き起こしていますが、何やら不吉な煙が立ち上っています。どうも、倭人伝考証は、「日本古代史」の辺境題材と見くびっているようです。視点倒錯、夜郎自大史観と言うべきですが、これは、氏の個人的な感慨ではないので、まことに勿体ないとだけ言い置きます。
 それは、初心者の自己陶酔のように思うます。率直に、倭人伝に関する知識と経験の不足を自覚して、初心者宣言すべきではないでしょうか。
 三世紀、日本は影も形もなかったのに、『「倭人伝」に書かれている国が、後の日本の祖型である、もし、不都合な記事があったら、それは、中国人が史実の認識を誤ったためである』との大前提では、本論は史料批判ではなく自己批判となります。
 
自己批判は流し読みし、不審な点だけの指摘に止めます。倭人伝」談義で、「日本古代史」など、禁句に等しいとお考えいただきたいのです。

*勘違い宣言

 まず、初心者と自覚していない論者の「倭人伝」認識、つまり、鏡に映った自己の認識が4項目に亘って宣言されていて、まことに非論理的で粗雑なものだと感じます。
 そそくさと引用します。
⑴ 三世紀前半のわが国土に、邪馬台国が存在していたこと。
⑵ 当時の倭人部族統制の権威には、男王による政治力を上回る、女性シャーマンのシンボル推戴が必要であったこと。
⑶ 部族集合体である複数小国家に共立された祭政の権力者(女王)として、卑弥呼が君臨し、後継者が壱与(台与)であったということ。
⑷ 邪馬台国の卑弥呼が、遠く中国の政治中枢部に認知されていたことは、当然国内各地域にもよく知られていたと考えられるということ。

 ⑴は、「わが国土」へのただならぬ思い入れが感じられますが、当方の理解の「圏外」です。まさか、「国土」が氏の私物だという主旨ではないでしょうが、四畳半住まいの小雀には、賛同はできません。

 ⑵は、現代の一部でだけ通じる符牒が満載で、素人には理解できません。
 
倭人部族」が何者なのか、何が「統制」なのか、「政治力」とは何なのか、「女性シャーマン」は、「シャーマン」など存在しない当時の何を言うのか、「シンボル推戴」は、「シンボル」など存在しない当時、何の意味なのか。それは、「シンボル」を推戴するのか、「シンボル」が推戴するのか、なぜそれが「政治力」を上回るのか。
 「倭人伝」に、一切出てこない、手前味噌で時代錯誤の言葉と概念を、ご大層にぶちまけても、善良な読者には意味が通じないのです。
 つまり、質問されても、無視するしかないのです。


 ⑶は、用語が前項と特に意味なく大きくずれている」ので、論者の意図を訴えるのに役に立たない不具合は置くとして、後半は、当たり前の読みであり、それが「倭人伝」里程論にどう関係するのか、論理はどうしたの、と言うことです。
 
また、「複数」と言うのは、二国、またはそれを越える数の国、という程度の意味であり、ここで強弁する意図が不明です。
 古代史で「小国」というのは、国の大小を言うのでなく、個々の國という意味であることは、聞き分けていらっしゃるようでほっとします。少し戻ると「祭政の権力者」は、中国古代史に無縁の概念であり、つまり、言葉になっていないのです。

 倭人伝」論の世界で通じない言葉づかいは、半人前呼ばわりされても、仕方ないでしょう。何しろ、ここは、「里程の謎」とテーマ指定されている場なのです。編集部が、没にしなかったのは、後難を怖れた「遠慮」でしょうか。

 ⑷は、さらに一段と理解困難です。
 「政治中枢部」は意味不明ですが、天子たる魏帝は、「倭の国中に告げよ」といいましたが、氏がここで物々しく言う「国内各地域」とは「日本列島」のどの範囲を言うのでしょうか。意味不明で困ります。「倭人伝」里程論との関連は見当たりません。

 折角力んでも、一向に、四大原則として殊更ぶち上げる意義が伝わってこないのは残念です。読者との提携を拒否していて、物書きとして修行不足です。

 続いて、突然、「海人」が登場し「国際陰謀」が起動しますが、「国際陰謀」が古代離れしていて根拠不明で、それが、万里の果ての陳寿が、魏志編纂の貴重な原史料記録を、天命に背いて捏造した動機とは同意できません。

 続いて意図不明の人口論が続き、里数論が始まらないのです。
 意図不明というのは、「倭人伝」には、有効数字一桁未満と思われる不確かな里数や戸数が出ているだけであり、憶測を重ねて漠たる推計を巡らしても、いくら数字計算が多桁に亘って正確でも、見た目にきれいな数字が並ぶだけで、意味も意義もない数遊びであり、三世紀当時の国家像と結びつかないのです。何か、考え違いされているようで、勿体ないことです。


 論者は、工業系の教養を有し、それを活かす実務に従事したはずなので、文系論者に比べて数字に強く、意味の無い多桁数字の害は熟知していると思うのですから、ひょっとして、古代史ファンの浪漫性に訴える「詐話」(フィクション)を試みているのでしょうか。

 肝心の里程論ですが、受け売りで「倭人伝」短里を認識していながら、それは、陳寿が根拠無しに五倍の里数、距離にしたもので、ことのついでに日数も五倍にしたと決めつけます。しかし、ご本尊がそうした意見に同意する根拠は、何も見られません。陳寿が耳にしたら、「ものを知らないのはお互い様ではないか、自分は、ちゃんと知らないものを知らないものとして書いているぞ」と言うところでしょうか。

 つまり、どこをどう叩いたら、ここまで、何故「倭人伝」の里数が「誇張」と言い切れるのか、論理的に正当化することを期待して読み進めている読者に対して、裏切りとしか言えません。


 重症なのは、里数の五倍と「幻の実距離」とが交錯して、「倭人伝」里数は「虚数」としていることですが、ここでは、数学の「虚数」、つまり、重大な意義と実態のある数でないのは自明ですが、勝手放題に造語されても、何の意味か、善良な読者は、一向に理解できないのです。
 案ずるに、論者は、「
倭人伝」里数を実態/実体のある数字だと気づかないまま、延々と「誇張」だと論じているのが、この一語に露呈していて、まことに錯綜しています。

 とてもとても、「里程論」「誇張論」とは言えません。場違いで無意味です。

                             この項完

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