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2021年12月 9日 (木)

新・私の本棚 船迫 弘 季刊 「邪馬台国」 第35号 「里程の謎」 再 5  2/3

 5 里程から見た邪馬台国         船迫弘
私の見立て ★☆☆☆☆ 疑問山積  2019/01/28 追記 2020/10/07 補充 2021/12/09

〇野性の呼び声
 続いて、倭人伝の水行、陸行基準を論じますが、現代事例の「野性号」を史料批判無しに持ち出しているのは、まことに不出来です。

 確かに、同プロジェクトは、貴重な「実験」として大いに参考にすべきですが、倭人伝に提示された行程道里は、同時代の公的記録が基準であり、一方、当実験には、海図、コンパスがあり、難航時は支援部隊が助力しました。
 一度限りの試行は、寄港状態、採用航路を厳重に時代考証した上で、読者に誤解させないように、その「限界」を明記した上で利用しなければなりません。

〇官道としての資格審査
 当方は、大局観として「危なっかしい船便は官道たり得ない、断固陸を行く」との意見を固持します。
 このような危なっかしい輸送/交通手段は、国家制度として採用されないのです。無作法を承知で言わせて頂くと、この海上行程が極めて危険で通行困難(実際上不可能)であることは、ほぼ常識であり、それは、実験するまでもなく、思考実験、当世風「シミュレーション」だけで明らかなのですが、冒険試行され、その結果が実用に適していることの証左と誤解されているのは、まことに不幸な成り行きです。

 冒険は、困難を超えて一度完漕すれば成功ですが、国家の制度として運用するには、確実でなければならず、不時の事態が発生しないような万全の備えが必要なのです。船が沖合で難船すれば、当時の沿岸の体制では救助は不可能であり、まさしく、海のモズクならぬもくずと消えるのです。

*「ハードル」談義~余談
 陸上競技の「ハードル」は、学校の体育の時間で習ったことを大きく外れた巷間の風聞/迷信と異なって、競技者を「阻止」するものではなく、難なく飛び越えられる高さで、しかも一定していて配置されています。何なら、ハードルを残らず突き倒しても、何の罰則もないのですが、それでは速度が落ちるので、ハードル勝者となるには、全数を飛び越えるのです。周知のように、何も無い走路の所要時間と、大差ない快速の競争なのです。ハードルは、試錬ですが、壁とか難関と言うべきものではないのです。
 この理解しやすい比喩に対して、古代の海上航行は、数千里の航路の一箇所でも船が沈めば万事休すです。競技者が挫折して水死する前提の競技など、絶対にあり得ないのです。

〇新羅遣唐使の道里
 後世新羅遣唐使が、「半島東南の王城慶州(キョンジュ)を発して北行して官道を一貫陸行し、小白山地を、二世紀に官道として確立された竹嶺(チュンニョン)の険で越えて西に転じ、海港唐津(タンジン)から山東半島に渡海した」ことも、この意見の裏付けと言えます。
 新羅が、高句麗と百済の係争地であった、漢城付近の要地を、精鋭の急襲で確保し、以後両国の回復を許さなかったのも、官道が軍道としての用に耐える確実な交通、輸送経路であったことを語っています。

〇理性的な解法
 また、倭人伝の言う「水行」が、沿岸行、渡海、河川行のどの主旨で書かれたか、倭人伝二千字では不明瞭ですが、当方は、大局的な分類を求めて、水行は、三度の渡海、つまり千里渡海の一日行程の三回と見るので、「上陸後の水行はなかった」(投馬国は傍路)と割り切っていて細かい理屈づけは無縁なのです。

 見解の相違ですから、論者に同意できないと言うだけで排除しているのではありません。また、国家制度に拘束されない市糴の槽船が、ある程度の危険を承知で、徐行した可能性を否定しているものでもありません。例えば、日帰り近隣の海市まで、地勢ならぬ海勢を熟知した村人の操る荷船が往き来するのは、むしろ、健全な姿であり、そのような往来を連ねれば、遠隔地まで、指摘の鎖が通じていたものと見えます。
 ここでは、当時、帯方郡に於いて、漢城付近と慶州付近を結ぶ官道が制定されていたと主張しているのです。

 と言うものの、一般人といえども、生命の危険は、そうそう犯さないものです。海域の天候、干満、潮流、浅瀬や岩礁の所在など、知り尽くした上で進んだはずですが、よそ者は、そのようなことを知るはずがないので、容易に多島海の寄港地に近づけないのです。

〇隋使の絶海行程踏破
 後世、隋煬帝の使者裴世清は、明らかに、山東半島からの海船で来訪していますが、関係部署に保存されていたはずの魏使行程を踏襲したのではなく、記録のない未踏の海域を開拓したような書きぶりです。是非参考にしていただきたいものです。

                                未完

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