私の意見 歴博展示品「後漢書東夷伝復元複製」の怪
2022/03/05
〇はじめに
最近、堂々と歴博(大学共同利用機関法人人間文化研究機構 国立歴史民俗博物館)に展示されている「後漢書東夷伝復元複製」は由来不明です。なお、歴博所蔵の范曄「後漢書」南宋刊本は、木版印刷の紙冊子です。
歴博展示物は、何を復元複製したのか、大変疑問です。複製、レプリカは、原本の制作過程、素材、加工手法を忠実に再現していなければ、学術史料の意義はないのですが、歴博は明細を公開していません。貴重な展示品の複製製作が根拠不明ではならないとみるのですが、どうでしょうか。
*范曄「後漢書」の由来
笵曄は、劉宋皇帝に反逆を企て、嫡子と共に斬首された重罪人ですから、未公開の後漢書遺稿は行方不明となり、唐代に章懐太子の元に届いた范曄「後漢書」は、「続漢書」の「志」部を採り入れた正史体裁となっていて、原本はとうに消滅していたのです。(苦笑)
何しろ、南北朝の分裂を、北朝側の隋が武力統一し、その隋が、煬帝の失政で戦乱の渦に沈んだあげくの唐による全国統一なので、経過不明なのです。
章懐太子は、「増補版」范曄「後漢書」に付注し、「史記」、「漢書」に続く三史の締めとしたから、歴博「後漢書」は、そうした章懐太子原本の「正史」の復元複製と思えますが、その時点では、袋綴じ冊子形態の写本と見えます。但し、それまでも、それ以降も、刊本以前の「後漢書」写本を見た者は、誰一人現存していません。(苦笑)
*考証不備
展示品は、范曄「後漢書」東夷列伝の復元複製と称していますが、正史小伝の分冊書が存在したと思えないので復元しようがないと見えます。(苦笑)歴博が、展示物を「後漢書東夷伝」復元複製と主張するには、歴史上、実物が存在した根拠となり得る証明が必要ですが、どこにも見られません。
「日本の古代14 ことばと文字」(中公文庫)「9.木・紙・書風」によると、素人が、時として簡牘巻物と称していたのは、学問的には「冊書」であり、簡牘の中で最も早く晋代に滅びたようです。
東晋では、帝室書庫蔵書は、紙に変わっていたはずであり、続く劉宋代、財産家で高級官僚の笵曄は、後漢書草稿段階から紙に専念したのではないでしょうか。編集部門内の覚え書きなど、紙に限ると言えます。
一体、何を目的に、当初は、冊書だった可能性が無視できない陳寿「三国志」魏志東夷伝でなく、正当化が困難な范曄「後漢書」東夷伝を復元したのか意図不明です。
*歴博の独断
歴博は、紙巻物とでも対比して「冊書」退潮を書けたはずです。范曄「後漢書」の原本を一巻復元すれば、対比が鮮明でしょう。なにしろ、本紀十巻、列伝八十巻の大著ですから、早々に木簡を廃したはずです。
歴博サイトの紹介では、単に、紙になっていなかったとしているだけで、これでは、歴博関係者の独断を押しつけていることになります。
*謎めいた制作意図
これまで、当事件については、不審なことが窓ガラスの向こう側の曇りに見えて、手がつかなかったのですが、今回、すっきりと拭えたのです。
〇まとめ
と言うことで、歴博の「後漢書東夷伝復元複製」の背景説明をお伺いしたいのです。それとも、一国民は、監査請求しないといけないのでしょうか。
以上
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