新・私の本棚 ネット記事「現代人でも至難の業! 卑弥呼の船はなぜ大陸から帰れたのか」 4/4
新刊書紹介「逆転の発想」から見えてくる邪馬台国 播田 安弘
日本史サイエンス〈弐〉邪馬台国、秀吉の朝鮮出兵、日本海海戦の謎を解く 講談社 ブルーバックス
*承前
海流が激しいのに、霞の果てに向けて漕ぐなど無謀の極みです。図示海流が三世紀に存在した保証はないというのが、「サイエンス」です。
それにしても、五十日経て漂着すらなら、餓死者の山です。
*不思議な「視点」幻想
邪馬台国の場所を考えるためにも欠かせない視点
すなわち朝鮮半島から日本に帰るには、……山陰をめざすほうがはるかに楽で、自然に到着することができるのです。……実際に、古代にはこうした山陰沖から日本海を通る「翡翠の道」「鉄の道」というべき交易路があったと考えられています(図「交易路[翡翠の道][鉄の道]」)。図略
「邪馬台国の場所を考えるためにも欠かせない」の断言ですが、他にどう活用するのか、不思議です。どこが楽で自然か、意味不明です。
当時、誰も地域全貌を知らず、遠めがねも羅針盤もなく、水や食料もなく、風雨を読めず、どこから、このような仕掛けを見出したか不明です。試行錯誤の果てと言うが、「錯誤」で関係者が死に絶えれば航法確立はありません。
丹後半島への旅も絶対否定はしませんが、早晩、徒死でしょう。家長が旅で死ねば家族は餓死し船主は破産します。古代人も命は惜しかったのです。
氏が一顧だにしない九州狗邪往復は、目視可能な対岸との渡海往来で手軽で確実であり、滅多に難破しません。快適で楽な経路が、健全で自然です。
中国地方北岸の沖合を、寄港しながら、北九州、そして、壱岐、対馬、狗邪に至る交易は「あり得た」ろうが、交易の要諦は、仕入れした物を手早く、仕入れより高く売ることであり、産地は、買い叩かれる定めなのです。
壱岐は、一大國として、海上交易の中心でしたが、半島交易成長で対馬に権益を奪われたと見えます。対馬は、狗邪に倭館倉庫と船溜まりを有し、飛び地の周辺農地で食料と水を得た倭地としたのは、自然の成り行きです。
*迷走の果て、続く瞑想
交易路[翡翠の道][鉄の道](『日本史サイエンス〈弐〉』より)
つまり、対馬海流は古代の航海にとって、……利用価値の高い海流だったと思われ……邪馬台国……を考えるうえでも、……重要……と思うのです。
「非常に利用価値の高い海流」とは、意味不明です。「この海流が果たしていた役割はかなり大きかった」と言っても、何が「かなり」なのか。毎度、非科学的で不明史料な言い回しでのらくらしていて、回答のしようがありません。凡人に理解できる平易・明解な言葉で書いて欲しいものです。
海流は、両方向の下り坂ではありませんから、順行時に尻押しされても、遡行時に莫大な労力を伴うのが自然の理、ただ乗りはできないのです。皇帝は、往還して、ようやく総評できるのです。
◯まとめ~率直な苦言
粗製される今どきの「新書」ならともかく、伝統と権威のある老舗、講談社ブルーブックスに求められる基準は、相応に高いのです。
折角のご紹介ですが、本稿で呈示されたホラ話は、仮説論証を必須とする「サイエンス」原則に背いていて、氏の新奇な「視点」による夢想談に過ぎず、編集段階で是正されて然るべきです。
因みに、純粋史学の「視点」からすると、所詮、「邪馬臺国」は、范曄「後漢書」東夷列伝倭条独自の名付けであり、その原史料で、正体が不明なのに、肝心の史料を放念して、トンデモ本ばりに憶測を重ねて、大倭王居処の所在地を推定するのは、率直なところ時間の無駄です。
この難詰は、つけるクスリがない類いのものなので、言いっぱなしの捨て台詞にしておきます。
以上
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