新・私の本棚 渡邉 義浩 「魏志倭人伝の謎を解く」増訂 2/4
私の見立て ★★☆☆☆ 「先入観」の塗りつけられた誤解継承 2019/04/21 増訂 2022/09/29
*文字の価値
そもそも、記事の充実度は、目方で量ることはできず、また、文字数で数えて評価するものでもないはずです。
文字数で勝負するのであれば、「誤字」も「誤記」も「虚言」も、それぞれ、充実度に貢献することになり、まことに不合理な事態となってしまいます。
また、数字の大小の評価も、決して一意的に定まるものではなく、「倭人伝」は、「魏志」の一部を成すものなので、中国全体の記事が「約三十七万字に及ぶ」「三国志」の中で「二千字」にわたって、不釣り合いに紙数を費やして詳述されているという見方も成立します。
こうしてみていくと、神のごとき公正や中立があり得ない以上、論者の見方は、いずれかの「偏った」見方であるのは避けられないのであり、著者の個人的で「偏った」見方が、論説の言い回しに、堂々と反映されるのはしかたないことですが、それを、何気なく提示して、こっそりもたれかけさせる言い回しは、品がないという感じがします。ちなみに、「及ぶ」と言うのも、何気なく、著者の卑俗な、現代物質文明に毒された価値観を押しつけています。
*周知、自明
直後に、「三国志」は、「邪馬台国」を記録するために著された史書ではないとまたもや、当たり前の意見を壮語していますが、これもまた、周知、自明の話であって、何も新たな知見を知らせてくれているわけではないのです。
余言の羅列という感じがします。一方、「倭人伝」は、「倭人」を記録するために書かれたのであり、その中で、倭人の国について記録しているわけですから、著者の発言は、意味/意義不明の妄言ともとれます。
*「はじめに」のまとめ
ここに、本著を上梓するに至った著者の抱負が示されています。
倭人伝の歪みを取り除き、邪馬台国の真実を示して行こう、との趣旨/抱負を述べていますが、物の道理として、「真実」は、無限とも思える情報量を有し、ひとたび、何者かの記述によって伝えられたとき、伝えられなかった部分は知ることはできないのです。それは、「歪み」以外の何かです。
記述の「歪み」を取り除けば、残されるのは無面目の混沌であって、元なる真実ではないのは避けられない道理です。
*空虚な壮語
著者の壮語癖は、本文の冒頭にも示されていて、「三国志は、書かれた当初から正史であったわけではない」と一発ぶち上げていますが、この発言はすぐさま、『「正史」は唐時代から始まった呼称である、従って、西晋の時代に「正史」と言う呼称はなかった』と揉み消されていて、この壮語は実弾ではなく、儀礼的な空砲であったことが示されています。
「三国志」上申当時に、既に、先行する「史記」、「漢書」の二史書は知られていて、概念としての「正史」は、すでに存在していたと思われるのです。単に、公言されていなかったものと見えるのです。
しかるが故に、それに続く正史として「後漢書」と「魏書」が、強く期待されていたのであり、「三国志」は、それに応える編纂事業だったと考えるのです。言うまでもないことですが、「三国志」は、陳寿の没後、言わば「遺稿」として残された、言わば上申された稿本が、西晋帝に上程されて嘉納され、「正史」の地位を得たのであって、「書かれた当初」、つまり、 陳寿遺稿の状態では「正史」でも何でもなかったのです。
因みに、後知恵として追記すると、後漢献帝の指示に基づいて編纂された荀悦「漢紀」(「前漢紀」)が、周知であったのです。
笵曄「後漢書」荀悦伝に曰わく、「帝好典籍,常以班固漢書文繁難省,乃令悅依左氏傳體以為漢紀三十篇,詔尚書給筆札」。つまり、班固「漢書」が「繁雑」なのを厭わしく思った献帝が簡要を求めた勅撰史書であり、筆写が奨励されたものの、遂に「正史」の地位を得ることはなかったのです。
いや、第一人者にして、袁宏「後漢紀」の部分訳を手がけている渡邉氏が、荀悦「漢紀」を知らないはずはないのですが、ここでも、子供だましの虚言を弄しているのが、多くの初学の人々に錯覚を与えているのを歎くものです。
未完
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