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2022年9月29日 (木)

新・私の本棚 渡邉 義浩 「魏志倭人伝の謎を解く」増訂 3/4

中公新書 2012年5月         2014/05/27
私の見立て ★★☆☆☆ 「先入観」の塗りつけられた誤解継承  2019/04/21  増訂 2022/09/29

・本文について - 冒頭論評
 4ページ末尾で、「これは、歴史事実とは異なる。劉備も孫権も皇帝に即位しているからである」と壮語して、それを認めない「正史」は偏向していると、論断しています。

 率直なところ、皇帝は、まずは自称です。同時代で言えば、先だって、袁術が皇帝と自称していますが、これも、{歴「事実と言うべきものです。確かに、袁術は皇帝に即位したのですが、程なく自滅していて、著者は、自身の価値観から、ほぼ無視しています。自称「皇帝」を皇帝と認めるのは、論者の価値観であり、劉備も孫権も、「皇帝」を自称したが、皇帝に即位してはいないとするのが、後漢献帝から正しく禅譲を受けた魏帝を天子と認めた「三国志」の堂々たる価値観です。
 さすがの陳寿も、「東呉」、「蜀漢」に皇帝本紀は設けていません。

・何気ない見過ごし
 因みに、少し手前で、何気なく、曹魏について、中国の北半分を支配、と書いていますが、これは、何気なく著者の価値観を押しつけているのです。
 「北半分」と書くと、なんだ、天下は半分子、残りの南半分を蜀漢と東呉が半分子、曹魏は、ただの50パーセント政権、残りは、25パーセント政権が二個あって、それぞれ五十歩百歩の状態だったと思わせたいようです。しかし、それは、著者の個人的な価値観であって、著者の言う歴史事実とは異なるのです。

 曹魏の持ち分は、天下の要所を締めていて、半分子などではないのです。周代の世界観で言うと、曹魏は、関中と関東を支配していて、当時の世界観では、天下の全てを占めていると見ることができます。まして、東呉は、ほぼ終止、曹魏の臣下に近い位置付けであったし、蜀漢の創業者は、後漢天子に背いて討伐される所を、成都に亡命したものであり、後漢から天下を譲られた曹魏の天下から見ると、鼠賊、叛徒に過ぎなかったのです。

 冷静に観察すると、曹魏は、曹操の時代に、形としては後漢朝の復興というものの、その過程で、東西の二大古都である「長安」「洛陽」を包含し伝統的に中国の中核とされる「中原」を支配し、伝統文物の作成を担当した官営工房である「尚方」を運用して典礼と暦法を復活し、史官を整えたのであり、とにかく、正統王朝に要求される面目と体裁を、絶大な努力で整備し、さらに、曹丕の代になって、天下の大勢から見て天命を失ったと見える後漢朝から中国の政権を正統を引き継いだのが、曹魏の功績だったと見えるのです。

 この視点から評価すると、蜀漢、東呉のいずれも、曹魏の足下にも及ばず、従って、地方政権と位置づけるのが、史官としての順当な評価です。
 三国鼎立は、蜀漢の価値観に影響され、名ばかりの「皇帝」の名目に影響されて、この視点から確認できる歴史事実を見失っていると思います。

 ちなみにこの視点は、西晋代、三国志編纂時までの「世界観」であり、異民族政権に中原を奪われて江南に逼塞した東晋以降の南朝各国や後に中原を追われた南宋にとっては、中原を支配しているものが天子であるという「世界観」は、自己の正当性を否定することから、「史官としての順当な評価」も変質し、異なった後世視点が形成されますが、三国志編纂時には、あくまで、曹魏の同時代視点が正統だったのです。

・小総括
 以上の論を総括すると、著者の考える「歴史事実」は、著者が先入見としている歴史観であり、このような無教養な行伊勢東夷の歴史観と同時代中原人人の歴史観と、どちらを尊重するかと言うことでしかないのです。いや、よく言われる「蟻が富士山と背比べする」と評しても、蟻が背比べを挑む「権利」自体は、誰にも奪うことができないとも言えます。

 そうした考察の提示のつかみの部分で、市井の一私人に、歴史観の浅いところを指摘されていては、肝腎の論考の展開が軽く見られようというものです。

                                                          未完

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