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2022年9月29日 (木)

新・私の本棚 渡邉 義浩 「魏志倭人伝の謎を解く」増訂 4/4

中公新書 2012年5月         2014/05/27
私の見立て ★★☆☆☆ 「先入観」の塗りつけられた誤解継承  2019/04/21  増訂 2022/09/29

*「魏志」私論
 「魏志」は、紀元三世紀の曹魏で展開された事件の無限の積層である「歴史」を、限られた言葉で書きまとめているのです。なお、「歴史」という単語は、現代では、「歴史」や「伝統」を有しない米国「文化」の影響で、不当な拡張と無神経な誤用が著しいので、慎重に読んでいただく必要があります。
 ここで言う「限られた言葉」とは、無限ではないとの意味です。いくら字数を費やしても、歴史(歴史事実)を書き尽くすことはできないと言いたいのです。百文字でも、一億文字でも、一兆文字でも、歴史の一部、一視点から見た、一局面を捉えようとした試みであって、「歴史」そのものではないのです。
 歴史の「客観的な事実」を「歴史事実」として、神のごとき視点と言葉遣いで著述する事は、誰にも出来ないのです。
 そうした冷静な認識のもと「壮語」や何気ないもたれかけ、という役に立たない隠れ家を遠ざければ、「魏志」の行間から、歴史事実の片鱗が垣間見えるはずです。

 司馬遷「史記」の書かれた漢武帝時代、班固「漢書」の書かれた後漢代、いずれも、漢王朝の威光が維持された時代です。これに対して、曹魏は、統一国家の面目を辛うじて維持したもの、と言えるでしょう。

 「(後)漢後継」と言うことは、中国全土を支配して、天下を正すという大命を与えられたのですが、先に挙げたように、絶大な努力で正統王朝に要求される面目と体裁を整備したにもかかわらず、蜀漢、東呉と言う(曹魏正統という、伝統的な視点で言うと)「不法」に自立した反乱勢力との抗争に明け暮れて、統一国家の復興を成し遂げず、また、曹丕、曹叡と天寿を全うできない皇帝が相次いで、「王朝から天命が去った」と見なされ、西晋に国を譲ったのです。而して、曹魏は、正統王朝の証(あかし)として、「後漢書」を編纂することができなかったのです。

 陳寿は、「史官」であり、その本分に即して、そのように「天下国家」の面目を整えられなかった曹魏の正史を、司馬遷「史記」及び班固「漢書」に匹敵する堂々たる史書の体裁で編纂すべきでない、と考えたのでしょうか。そうであれば、これこそ「春秋の筆法」と呼ぶべきものです。
 これもまた、陳寿の史眼で捉えた「歴史事実」なのです。

*総括
 本書での著者の論考自体は、「魏志」、特に「倭人伝」の書きぶりを高く評価しているように見受けます。
 しかし、著者の論考の基礎は、「倭人伝」原文から「倭人伝」原文を読み解く』のではなく、時代観察者にして「正史」編纂者である陳寿に不可避な「誤差」に、二千年後生の無教養な東夷読解者の「誤差」を高々と積み上げたために「歴史事実」から大きく遠のいていると見るべき「読み下し文」に論考の基礎を置いているので、歴史事実の開拓者たろうとする著者の抱負に、早々と背いているように見えます。謹んで、ご自愛をお勧めします。

 当ブログ筆者は、一介の私人として、「倭人伝」の解釈に取り組むにあたり、世上に氾濫している諸兄姉の著述が、ほぼ国内史論に根ざしていて、「倭人伝」事態で無く、「個人的な思い込み」の正当化に奔走するあまり、自己流に改竄した「倭人伝」を俎上に上せ、陳寿に対して、曲筆、偏向の誹謗を浴びせていることを歎いたものです。
 渡邉氏は、本書に於いて、中国史書の研究を氏の学究の原点/出発点とし、国内史料を遠ざけたとしていますが、まことに同感に堪えないものです。いや、知らずして先人の後追いをしていたことは、むしろ誇りとしていますが、以後の氏の論考が、当初の抱負と乖離して、国内先哲の追従に逸れているように見えることを歎くものです。

*おことわり
 以上の論じ方は、それぞれ先賢の著作から教示を受けたものですが、随分我流にこね回しているので、あえて、出典を上げていない物です。

                             以上

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