新・私の本棚 「魏略西戎伝」条支大秦の新解釈 壱 導入篇 4/4
2019/10/27 2022/11/13
□誤釈の起源 Origin of Speculation
魚豢は、漢書「西域伝」安息伝の「二枚舌」を解釈できず、安息国が、数千里にわたる超大国と「誤解」したため、安息国西界、つまり、西の果ての向こうにある条支国は、メソポタミアに王都が存在する安息の西方と誤解したようです。「大秦は、既知の莉軒であって大安息内部、小安息近傍」との端的な行文を誤解釈し、余計な何ヵ月という海上所要日数を書き足したのです。
そのため、条支、安息並記と読んで「大海」地中海の西の「海西」と見て文を閉じ、直後に開始の海西記事が大秦記事と誤解され、さらに沢山の誤解を誘発したのです。何のことはない、条支は、大海、実はカスピ海のすぐ向こう岸であり、条支の向こうは(直に見えない)黒海だったのです。
*本当の条支探査
本来の条支行きは、当然、カスピ海の船での移動でしょう。いくら軍人でも、虎や獅子は避け、難なく便船で渡海したはずです。因みに、条支は海西にあって、大海カスピ越しに手に入れた小安息国物資を、大海「アゾフ海」、「黒海」経由で、船荷として地中海に流し、あるいは、陸路流通して、巨利を得ていたようです。黒海南岸には、かつて、ギリシャと競合したトロイアが栄えていたので、黒海経由の東西貿易は、シルクロードなどとしゃれた呼び方が生じる前から、大いに繁栄していたのです。
*使命の達成報告 Mission Complete
それはさておき、条支国の国情を見定め、今後の交情を約したことにより、甘英は、所記の使命を達成し班超西域都護に向かって東に帰ったのです。
当然、甘英は、堂々たる文書をもって班超に復命し、班超は、それを嘉納すると共に、洛陽の皇帝に報告文書を届けたので、文書は皇帝のもとに届いたのです。不首尾の報告まであれば、班超は譴責を承けたでしょうが、そのような記録は残っていないのです。いや、記録はなくても、班超は顕彰され西域都護の任にとどまったから、甘英の使命達成は確実なのです。
□総括
甘英の帰任後、老いた班超は、多年の西域の激務から退任して後漢の西域経営は活力を失い、皇帝の代替わりもあって急速に退潮し、西域は匈奴の意のままになったのです。但し、匈奴は、長年の漢との衝突の多大な被害により単于独裁が崩れ、西域諸国への圧政は一時緩和されたようです。
と言うことで、甘英は、断じて使命放棄などしていないのです。
冤罪を報じた報いとして、范曄は史家としての不名誉を承けるべきです。
ここは、導入篇、序論ですから、要点だけにとどまるのです。
□西戎伝道里記事の語法について
随分手間取りましたが、魚豢が認めた用字は、概ね以下のようです。同時代の同趣旨記事ですから、特段の重みのある用例です。
「従」は、書かれている地点から「直行」という意味です。
「循」は、海岸線と直交する方向を言います。
「去」は、続く地点から逆戻りすることを言います。(方角が逆転します)
「復」は、道里の直前起点に戻ることを言います。
「真」は、特に厳密な四分方位を言います。
「転」は、概して直角に進路を変えることを言います。
「歴」は、当該国の王治に公式に立ち寄ることを言います。
「撓」は、地形に従い円弧状の経路を行くことを言います。
「陸道」「陸行」は、人畜を労して、陸上を行くことを言います。「陸」は、平地を意味し、宿駅のある街道が整備され、騎馬移動や車輌搬送ができるのです。
「水道」「水行」は、人畜を労せずして、河水面を行くことを言います。
「浮」は、本来、小舟や筏で水面を移動することを言います。
「乗船」は、便船に乗ることを言います。
「大海」は、外洋でなく、塩水を湛えた閉水面を言います。
導入篇 完
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