« 新・私の本棚 「魏略西戎伝」条支大秦の新解釈 壱 導入篇  3/4 | トップページ | 新・私の本棚 「魏略西戎伝」条支大秦の新解釈 壱 導入篇  1/4 »

2022年11月13日 (日)

新・私の本棚 「魏略西戎伝」条支大秦の新解釈 壱 導入篇  2/4

                             2019/10/27 2022/11/12
□魚豢編纂「魏略西戎伝」(西戎伝)とは
 魚豢「魏略」は、陳寿「三国志」とほぼ同時代に編纂された史書であり、三国をほぼ並記した「三国志」と異なり、魏朝一代史であり、四百年にわたる漢を継いだ正統政権であるとして、呉、蜀を、反逆者としています。
 「魏略」は、暫時帝室書庫の所蔵書籍として厳格な写本継承が行われましたが、魏朝の正統性への評価が低下するにつれ、書庫外に押しやられ次第に散逸したようです。
 因みに、「西戎伝」とあえて銘打ったのは、班固「漢書」西域伝で、漢との交流、西域都護への帰属が表明されている西域諸国の「伝」に対して、それより西、漢の威光の及んでいない「西戎」の国情を初めて奏上するとの意であり、新来諸国が、漢を継承した曹魏の威光に服すれば、西域は西方に延びるという主旨と思われます。

*西戎伝の信頼性
 一般論として、魏略は大半が佚文であるため、信を置けないとの定評ですが、こと、「西戎伝」の評価は大変高いのです。魏志に補追された「西戎伝」は、劉宋史官裵松之が、当時帝室蔵書として管理されていた「魏略」善本を底本とてし、裵松之が責任を持った引用であり、「三国志」本文に遜色のない高い信頼性の評価をあるのです。もちろん、数カ所の明白な誤記と後年加筆らしい数行の不審記事はあるものの、全体として、大変正確な史料と見られるのです。

 因みに、二十世紀初頭にかけて中央アジア広域を探検したスウェン・ヘディン(スウェーデン)は、西戎伝を信頼すべき座右の書としたそうです。

*後漢書の虚報

 范曄「後漢書」西域伝は、「西戎伝」、ないしは、その原史料に基づく紀伝ですが、原史料の正確な要約でなく笵曄の常識と論理に基づく再構成が行われていて、特に、「大秦」関係記事は、明らかに誤伝となっています。特に、西域都護班超の副官にして安息訪問大使の甘英の大秦渡航断念事情は、根本的に虚偽記事であり、まことに不出来です。范曄と比較できる同時代史書として、袁宏「後漢紀」と魚豢「魏略」西戎伝が、今日まで継承されていなければ、笵曄の曲筆の是正ができなかったと思えば、正史といえども厳重な史料批判が必要という基本的な訓戒がわかるのです。
 いや、笵曄「後漢書」の紀伝部分は、先行諸家後漢書を参照していて、信頼できるのですが、西域伝は、他史料に基づく校訂が見えず、心許ないのであり、東夷伝は、他家後漢書に欠けている独自記事なので、不安です。

*大局的使命
 西域都護の副官甘英が、都護班超から承けた大局的な使命は、司馬遷「史記」大宛伝、班固「漢書」西域伝以来の西域探査であり、漢代は、安息、条支が西の極限ですから、それより西の世界は、未知の領域であり問題外だったのです。

 あくまで仮定の話ですが、甘英が、使命の安息、条支に至って、さらに西方の土地を耳にしたとしても、それは使命外ですから、仮に使命の延長線上の、いわば、拡張使命になり得ると考えても、その情報の信憑性を確認した上で、以後の対応については西域都護の指示を仰ぐ必要があったのです。

 班超が、仮にそのような上申を受けたとしても、甘英が更なる遠隔地に赴けば帰任が大幅に遅れ、使命報告が大幅に遅れることを大いに危惧したはずです。班超の使命は、西域の安寧確保ですから、成すべき事はその使命の成果を持ち帰り、本来の西域都護の任に就くことなのです。

*漢朝偉業の継承
 そもそも、班超が甘英に与えた使命は、西域にひろがる匈奴を駆逐する戦いを西方から支援する同盟者の発見と盟約の確立にあったのです。

 それは、かつて武帝が張騫に与えた使命でもあり、匈奴と角逐している当時と西域状勢は何ら変わっていないのです。当初、西域の覇権は、漢か匈奴かでしたが、後漢中期、かって張騫が交通を築いた大月氏後続である貴霜国が、西域都護に対し反抗を続けていて、洛陽の支援が乏しくなって西域都護が衰弱すれば、後漢の支配が崩壊する状態だったのです。班超は勇猛果敢で、諸国を睥睨していたが、引退の時が近づいていたので、低迷の相手を得て、後年の安定を期したかったのです。。

 従って、甘英は、中央アジア暑熱地帯を抜け、司馬遷「史記」大宛伝で初めて紹介された文明大国「安息」を訪ね、武帝時代以後途絶えていた交流を再構築し、低迷を提案したはずです。 それが、甘英の西域探査の端緒なのです。

                                未完

« 新・私の本棚 「魏略西戎伝」条支大秦の新解釈 壱 導入篇  3/4 | トップページ | 新・私の本棚 「魏略西戎伝」条支大秦の新解釈 壱 導入篇  1/4 »

新・私の本棚」カテゴリの記事

西域伝の新展開」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 新・私の本棚 「魏略西戎伝」条支大秦の新解釈 壱 導入篇  3/4 | トップページ | 新・私の本棚 「魏略西戎伝」条支大秦の新解釈 壱 導入篇  1/4 »

お気に入ったらブログランキングに投票してください


2024年2月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29    

カテゴリー

無料ブログはココログ