04. 始度一海 - 読み過ごされた初めての海越え 追記補追 4/5
倭人伝再訪 4 2014-04-24 追記:2020/03/25 2022/10/17 2023/01/28
*大海談義ふたたび
中原人にとって、辺境の「大海」は、西域の蒲昌海(ロプノール)や更に西の裏海(カスピ海)のような「塩水湖」なので、中原や江水沿岸にある「湖沼」混同されないように、言い方を選んでいるのです。
また、今日の言い方で綴ると、「対馬海峡」は、東シナ海と日本海の間の「海峡」、つまり、山中の峡谷のような急流となりますが、当時、東シナ海も日本海も認識されていなかったので、「海峡」との認識は通用していなくて、単に、一つの「大海」を、土地の渡し舟で越えるとしているのです。
*「海」という名の「四囲辺境」の「壁」
別の言い方をすると、古典書で、「海」は、中国世界の四方の辺境に存在する「壁」であり、本来、塩水の水たまりという意味では無かったのです。そのため、西域で「塩水湖」に遭遇したとき、それを「大海」と命名したものであり、四海の内、具体的に直面する東の「海」についても、漠然と、塩水のかたまりとしての意識しか無かったのです。
その結果、帯方郡の東南方にある蛮夷の国は、東夷を具現化した「大海」と認識され、次に、「大海中山島」、つまり、「大海」中に「國邑」があるとみたようです。あくまで、『「大海」が「倭」との「地理観」』が長く蔓延って、「倭人伝」は、普通にすらすら読むことが困難なのです。
何しろ、陳寿の手元には、さまざまな時代の「世界観」で書かれた公文書史料が参列していて、史官は、史料を是正すること無く編纂を進めるので、遙か後世の夷人は、謙虚、かつ丁寧に読み解く必要があるのです。
*「瀚海」談義
予告すると、次の湖水は、特に「翰海」との名があるとされていて、「又」別の渡し舟で越えるとしているのです。そして、次は、無名の「一海」なる塩湖となっていて、「又」別の渡し舟で越えるとしているのです。
「瀚海」は、広々とした流路の中央部であり、むしろ「ゆったりと流れる大河」の風情であり、古田氏の戯れ言の如く「荒浪で壱岐島を削る」ものではなかったのです。むしろ、絹の敷物のように、細かいさざ波を湛えている比類の無い眺めだったために、「瀚海」と命名されたように見受けます。これは、滅多に無い孤説ですので、聞き流していただいて結構です。
*「一海」を渡る「渡し舟」
「渡し舟」は、中原人世界観では、身軽な小舟であって、決まった「津」と「津」を往き来して、公道(highway)である街道を繋ぐ、補助的な輸送手段です。中原の街道制度で、渡船は道里や日数に含まないのです。
「倭人伝」の「渡し舟」は、流れの速い海を一日がかりの長丁場で乗り切るので、「倭人伝」は「渡海」とし「水行」として道里や日数に含んでいます。
*「倭人伝」用語の実相
陳寿は、それまでの「慣用的な用語、概念を踏まえて、辺境の行程を説いている」のですから、後世の読者は、「現代人の持つ豊富な知識と普通の素直な理解」を脇に置いて、歴史的な、つまり、当時の中国、中原に於ける歴史的/慣用的な用語、概念によって理解することが求められているのです。
「倭人伝」は、三つの塩水湖「一海」を、それぞれの渡し舟で渡るのです。行程全体の中で、難所に違いないのですが、普段から渡し舟が往き来しているとして、史記始皇帝説話などで見られる物々しい印象を避けたと見えます。
未完
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