04. 始度一海 - 読み過ごされた初めての海越え 追記補追 5/5
倭人伝再訪 4 2014-04-24 追記:2020/03/25 2022/10/17 2023/01/28
*島巡りの幻想払拭
と言うことで、この間を、魏使の仕立てた御用船が、島巡りして継漕して末羅国まで渡るという、古田武彦氏を継承する物々しい想定は、陳寿が丁寧に噛み砕いた原記事の、時代相応の順当な解釈を外れていると見るものです。
凡そ、専用の頑強船体で屈強漕ぎ手が難所を漕ぎ渡った後、専用船を「便船」として連漕するのは、不合理です。「便船」なら普通の漕ぎ手に交代すべきで、屈強漕ぎ手は休養し、頑強船体は折り返し行程に備えたでしょう。
古代と言えども、合理的な操船手順のはずです。でなければ「渡船」事業は、業として成立せず速やかに破綻するのです。
*辻褄合わせのいらない概算道里
そもそも、公式道里は、郡治から國邑までの「道のり」であり、對海国に至る道里には、途中の細かい出入りの端数は全て含まれています。そもそも、都合万二千里の総道里であり、全てせいぜい千里単位の概数計算ですから、「島廻遊」の端数里数は、はなから読み込み済みなのです。
古田氏は、概算の概念を失念され、一里単位と見える「精密」な道里の数合わせに囚われ、端数積み上げで帳尻合わせする挙に陥ったと見えます。
概数計算の概念では、千里単位の一桁漢数字(但し桁上がりあり)で勘定が合うことが求められ、桁違いの端数は勘定に関係ないのです。
世上、倭人伝道里を算用数字で書く悪習が出回っていますが、そのような時代錯誤の無意味な数字を目にしたために、千里代も百里代も同格との錯覚が蔓延していたら残念です。「倭人伝」道里記事は、漢数字による概算計算の世界で、倭地内の道里以外は千里単位です。
*異次元の「方里」
散見される「方三百里」、「方四百里」なる「方里」表現は、行程「道里」でなく面積表示と見え、ここに展開した道里と、全く、無関係、異次元です。(「異次元」は、当世、馬鹿馬鹿しい意味で転用/誤用されていますが、本項は、数学的なものであり、道里は一次元、方里は二次元で、大小比較も加減算もできないと示しているだけです。)
*脱「短里論」の契機
当ブログでは、三世紀当時、時代独特の「里制」は、一切存在しなかったと断定しています。「倭人伝」に限定して「狗邪韓国まで七千里」と定義した「里」は、遡った高句麗伝や韓伝には適用されず、「方里」記事の「里」は、普遍の普通里、ほぼ四百五十㍍となります。ご確認頂きたいものです。
この点は、世上「定説」めいて、誤解に基づく議論が当然のようですが、誤解に立脚した議論は、いかに支持されても誤解にほかならないのです。言い古された言葉ですが、学術的な論義は、声が大きいのが「正義」ではないし、まして、拍手の数が多ければ「正解」でもないのです。
*「倭人伝要件」の確認
総括すると、正史蛮夷伝「倭人伝」の要件は、蛮夷管理拠点である郡から新参蛮夷倭王居処に至る主要行程の公式道里と所要日数を確定することです。
遠隔の倭地内の地理情報や主要行程外の余傍の行程は、本来、不要なのです。当時の史官、さらに、政府要人は、悉く、基礎数学を修めていて「数字」に強く、概算計算の概念を適確に理解し誤解はしなかったものと解されます。
「倭人伝」が裁可されたのは、自明概念を適切に述べたためと思われます。
*「早合点」の一つ
「島巡り」なる早合点は、氏の提言の契機として著名ですが、氏の合理的論考を揺るがして提言全体を危うくし、誠に残念です。
以上
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