新・私の本棚 伊藤 雅文「検証・新解釈・新説で魏志倭人伝の全文を読み解く」
- 卑弥呼は熊本にいた! - (ワニプラス) (ワニブックスPLUS新書) – 2023/2/8
私の見立て ★★★★☆ 丁寧な論考を丁寧に総括した労作 2023/02/11
◯始めに~新解釈・新説に異論あり
本書は、倭人伝考察に関して、麗筆で知られる筆者の最新作であり、これまで、氏の論説で、唯一致命的とされていた倭人伝改竄説が、控え目になっているが撤回されてないのは、依然として「重大な難点」と見える。
「重大な難点」を癒やせない筆者の論説は、折角の労作が全体として疑念を抱かれるので、大変損をしていると見える。ご自愛頂きたいものである。
*難点列挙
1.原文改竄~始まりも終わりも無い混沌
氏は、原文の由来を明らかにしていないが、「対馬国」と書いているので、紹興本によるものと見える。いずれにしても、原文は「邪馬壹国」であるので、これを「邪馬台国」と改竄するのは、信用を無くす。不用意である。本書は、冒頭から「邪馬台国」と書き進んでいて、現代語訳で書き換えているとも見える。このあたり、「邪馬台国」派の改竄説に対する税金のようなものであり、逃げられないものと覚悟すべきなのである。
2.「道里」の曲解/正解~余計な廻り道
氏は、「道里」を「新語」と紹介するが、古来「道里」は、常用されていたのである。「新語」を正式史書に採用しては、史官として不用意であり、処断されるものと見える。重大な認識不足である。氏は、遂に、魏晋代新語との手前味噌を排して、原本に回帰したのであり、当然とは言え、「道里」は「道」の「里」との当然の理解/結論に至ったのを祝し、ご同慶の至りである。
3.道里/行程について~下読みしないことの不毛
氏は、『「倭人伝」の道里行程を、魏使(郡使)の報告によるもの』と根拠なく予断されているが、普通に解釈すると、正始魏使が下賜物を帯行して訪倭の使命に発するには、「行程全所要日数を予定する」必要があり、「都水行十日、陸行一月」は、「魏使派遣以前に皇帝に報告されていた」と見るものではないだろうか。所要日数不明、あるいは、全道里万二千里だけでは、魏使派遣は不可能だったと見るものである。何しろ、行程上の諸国に、到達予定とその際に所要労力、食料などの準備が必要であることを予告し、了解の確約を得る必要があるから、全工程一万二千里との情報、狗邪韓国まで七千里などの大雑把な道里次第では、難題は解決しないのである。いや、当然極まることだから、記録されていないだけで、ちょっと考えれば、他に選択肢はないのである。
当時の事情を推察すると、「全道里」万二千里が、何らかの事情で、実際の道里に関係なく、公認されていたために是正不能で 、部分道里を按分して、設定せざるを得なくなり、制度上の欠落を補足するために、実態に合わせて、全所要日数、都合「水行十日、陸行一月」 を書き込んだと見えるのである。帯方郡の言い訳としては、倭地には、馬車も騎馬連絡もないから、徒歩連絡のみであり、道里だけでは、実際の所要日数が分からないので、別途精査したということになる。
下読みすれば、景初年間に、そのような訂正された道里行程記事が、既に記録されていたのが、陳寿によって倭人伝記事となったと見ることができる。案ずるに、後年の裴松之が、道里行程記事に異を唱えていないのは、そのように史書として筋が通っていたからであり、結局、陳寿が認めた内容で良しとしたのである。以上が、当ブログ筆者の考える筋書きである。
長大な一連の記事が「従郡至倭」と書き出されているように、本来、行程記事は、通過諸国を列挙した後、最終目的地「伊都国」に「到る」のが、要件であったと思われ、付加して最終目的地を発して四囲に至る記事と見ると、もっとも筋が通るのである。筋が通らない解釈を好まれる方には、「倭人伝」の有力な同時代読者である皇帝や有司/高官は、面倒くさい理屈は不要であり、さっさと結論を示せと言うだけだったはずである。
その解釈を妨げるのは、魏使が伊都国を経て邪馬壹国に至る解釈であるが、「魏使行程記録でない」とすれば、論者の面子は保たれ、恥の上塗りになるような異議は回避される。
「倭人伝」道里記事解釈談義は別記事に譲るが、諸処の記事で明らかである。むしろ、「行程最終地が邪馬壹国であり、そこに到るまでに、(傍線行程と明記している)奴国、不弥国、投馬国を通過した」との頑固な思い込みが、大局解釈を阻止していると見える。いや、業界の大勢が、そのように勘違いしているから、論者が、それに染まっていたとしても、別に恥ではない。勘違いに気がつくかどうかである。
事程左様に、解釈以前の下読みが、曲解/正解の岐路である。
4.論争の原点(第6章)~無残な改竄説提起
ここまで、高い評価を続けていたのだが、最後に、氏の愛蔵する「改竄説」の「魔剣再現」である。結局、氏が、倭人伝道里行程記事を適確に解釈できないために、責任を原典に押しつける「付け回し」である。まことに勿体ないので、氏自身でツケを精算するように「猛省」頂きたいものである。
◯まとめ~ダイ・ハーデストか
氏は、好著の最後に改竄説を呼び込み、因縁の躓き石でどうと倒れている。
1~3の見過ごし、勘違いは、年代物とは言え是正ができるが、4は、容易に是正できない重大なものである。理屈を捏ねても望む結論に繋がらないために、無法な後づけに逃げているので、「病膏肓」、「最上級のダイハード」である。
氏の不評は、「熊本」にも、「くまモン」にも、大いに不幸である。
以上
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