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2023年2月23日 (木)

新・私の本棚 鳥越 憲三郎 「中国正史 倭人・倭国伝全釈」肆 9/10

中央公論新社  2004年6月
私の見立て ★★★★☆ 労作 必読 批判部分 ★☆☆☆☆ 2023/02/21 2023/05/27 2024/02/11

「梁書」概観のみ
 南朝の梁は、半世紀に及ぶ武帝時代の繁栄が、その治世末期に大暗転し、大規模な反乱軍に帝都を長期に包囲された挙げ句、屈服したため、政府の統治機構が破壊され荒廃しています。
 後継「陳」は、南朝の残骸に過ぎず、北朝を統一した隋に打倒され、公文書庫を破壊されたので、天下国家としての形跡を残していません。
 梁書は、唐代に散佚梁文書類を集成したものであり、諸処に難点があると見えます。但し、要注意と言うだけです。

「隋書」「俀国伝」
 氏は、ここで、中国史書解釈に未確認国内史書を導入して不法と見えます。

*隋書の意義
 隋は、江南で叛旗を掲げていた不当な僞天子「南朝」を打倒し、中国正統の天子となったので、「東晋」、「宋」(劉宋)、「齊」(南斉)、「梁」、「陳」の公文書を正当に継承せず/むしろ廃棄し、隋書を編纂した唐代史官は、三国志以降の「正史」を継承するのでなく、単に、野史、稗史扱いとしています。以下略

 一方、国内史料は、隋使対応記録に関して随分不正確で、典拠としたと見える公文書記録が、杜撰だったものと見えます。(腐っても鯛の)中国正史との比較は、論外です。

*隋書を基点とした解釈
⑴隋書は、隋使派遣記録ですが、国内史料は「大唐」と誤記しています。
 隋使が未来王朝を語ることは無いので、国内史料の誤りとなります。
⑵隋書は、隋使を「文林郎」とし、国内史料は「鴻臚寺掌客」とします。
 隋使が官位等を誤認することはあり得ないので、国内史料の誤りとなります。

*裴世清談義~「二字名の禁」解除
 「裴清」と「裴世清」の違いは、一つには、隋代まで「二字名の禁」があって、本名が裴世清でも、公には「裴清」と名乗らなければならなかったのかとも思われます。隋代に太原留守の高官であった「李淵」(一字名)のこどもたちは、李建成、李世民、李元吉と二字名になっています。要するに、過渡期の画期だったのです。

*裴世清談義~僻諱
 あるいは、二郎、つまり、次男であった李世民は、天子になる想定をしていなかったので、父が、ありふれた「世」、「民」で命名していたため、第二代皇帝に就職するに際して、「天子の実名は一切使用禁止」という「僻諱」に従うと、日常生活に重大な支障を生じるのを危惧して、僻諱を強制しないと布告していますが、臣下は、自身の実名から「世」を取り除いたようです。
 太宗李世民の就職(CE626)後、裴清と改名したとも見えます。

*文書上の裴「世」清
 もちろん、先立つ、隋代、唐高祖代、李世民は、高官李淵の次男坊であり、僻諱と無縁でしたが、隋煬帝の文書では「裴世清」と書かれていたものの、隋書編纂時は唐代なので、史官が僻諱したと見えます。正史は、史実無修正が大原則ですが、僻諱は例外なのです。

 と言うことで、隋使として、皇帝の名代である使者について、隋書「俀国伝」で「文林郎裴世清」は問題ないのですが、行人として蛮夷の地で任務に就いている間、官位として最下位に近い原職を表明することはないのです。まして、官名詐称はあり得ませんから、「鴻臚寺掌客裴世清」は、国内史料の誤りとなります。
 国内史料には、本来禁じられている「官名詐称」で国内に「掌客」なる部署を創造していると見られますが、「掌客」とは、蛮夷の持て成しの職を言う下級職なので、隋使に対して、とんでもない蔑称であり、もちろん、そのようなとんでもない官職を、隋使の前で語ることは、もっての外であり、国内史料は、明らかに、何らかの錯覚に基づいて書かれていることになります。

                                未完

                                以上

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