新・私の本棚 鳥越 憲三郎 「中国正史 倭人・倭国伝全釈」肆 7/10
中央公論新社 2004年6月
私の見立て ★★★★☆ 労作 必読 批判部分 ★☆☆☆☆ 2023/02/21 2023/05/27 2024/02/11
*さらば骨董所説(レジェンド)
氏の「倭人伝」道里に関するご意見は、実は、諸郡地理交通不明時代の遺物(レジェンド)であり、早々にお蔵入りした方が氏の名誉に相応しいのです。急使で、通常四十日行程の九州の倭と交信して、始めて半年程度で対応できるのです。検算をお勧めします。
なぜ、「万二千里」以上に「水行十日陸行一月」が要件かは、鳥越氏ほどの知性があれば、若干の思考で理解できる筈ですが、もし、理解できないようなら、地理情報の読解力不足であり、以後の議論が成り立ちません。
30 氏は、大夫難升米が、倭の高官/有司と認めていますが、国使として、女王が大権を委ねるには、最高重臣と見るのが普通です。むしろ、宰相/大宰であり、一度に大夫二人が抜けて、女王も心許なかったものと思われます。
因みに、「大夫」は魏制官名と重なって不都合なので、「倭人」は、官名詐称の誹りを丁寧に避けて、「倭大夫」と称したはずです。「倭人伝」には、「倭大夫率善中郎將」なる官名が登場しますが、「倭大率」と略称し、さらに簡略化して「一大率」と称したかとも見えます。いや、つまらない思いつきです。
中国側遣使は、蕃王と接見すべき対等者(Counterpart)でなく、そもそも新参蛮夷への漢使行人は、現地で殺されるのも覚悟の下位官人が多いのです。行人は皇帝名代ですが、それは、一時的な威厳に過ぎません。別に、皇帝に列する高官になったわけではないから、別に、蕃王に接見する必要はなく、仮に接見しても上座に着かなくても良いのです。
31 天子の買い叩き
氏は、ここで突然たたき売りに出て、詔書に明記されている銅鏡百枚が、その三分の一程度と断じます。困ったものです。詔書は、最高文書であって、千載まで伝えられるから、皇帝が嘘つきとの証拠を残すなど論外です。
また、いかに蛮人でも、銅鏡の枚数を数えること位はできるから、女王が銅鏡を配布する際に、魏帝が嘘つきだと吹聴されることになるのです。皇帝の面子は、そんなにつまらないものではないのです。
そもそも、百枚は、倭人の要求ではないし、三十枚としたかったら、詔書をその通りにしたらいいから、氏の筋書きは無用の恥さらしに見えます。あるいは、明帝の詔書/遺詔を、少帝曹芳が曲げたとの強弁であり、誠に理不尽です。このあたり、氏が、中国史書の前提を解していないための誤解であり、もし、助言者の誤指示であれば、共々、譴責されるべきです。
いずれにしろ、ここで力み返って銅鏡の枚数にこだわるのは、実質、効果ともに、不確実です。
*無理な括り付け~新鏡説の不備
ついでながら、一部俗説のように、この時渡来したのが、所謂「三角縁神獣鏡」としたら、新規意匠、新規大型化、新規製造方法では、戦時体制の魏朝の手に負えないのです。それこそ、十枚に値切り倒すのではありませんか。
要するに、漢代制作品の在庫一掃とみたら良いのではありませんか。中国は、鏡に対する特別の敬意をもっていなかったので、不人気な時世では、死蔵に近い形で退蔵されていたとも見えます。とは言え、青銅材料が逼迫して、新宮殿装飾品の用材が不足しても、鋳つぶされなかったのは、
幸運だったのでしょう。
*ありふれた蛮夷厚遇
漢代以来、無名の群小蛮夷の来貢の際にも、正使、副使、随員にまで、印綬を渡すのが定例であったようです。果ては、蕃王臣下の下級「王」に、印綬を渡したとされています。金印というものの、中国古代の用語で、「金」は「黄金」でなく、「金銅」ですから、一山いくらで、「倭某国王印」も授与できたと見えます。もちろん、そうした些事にくらべれば、正始下賜物は、普通の厚遇と見えます。
36 「大作冢」の正解候補
ここで、「大作冢考証」で、大規模墳墓は存在しなかったと断じて痛快です。
*殉葬反省会
また、『当時の葬礼に「徇葬」は無い』とは、氏の見識に裏付けられた小気味よい正解であり、「勝手に」「殉葬」など、世上溢れる改竄の愚は犯していないのに、「徇葬」解釈を誤ったのは、氏の不慣れな、漢文解釈での細やかな勘違いであり、仕方ないのです。
「径百余歩」は、氏の値切り癖で仕切られていって、何はともあれ、大幅縮小のようですが、五分の一なのかどうか、値引率が不明では何とも申し上げられません。中国計量史は、かなり込み入っているので、氏が持て余しても仕方ないのでしょう。然るべき専門家諸兄姉の意見で解決するかも知れませんが、まだ、定見は出ていないので、やっぱり持て余すかも知れません。
大分お疲れのようです。当方も、限界に来たので、ほぼ閉店です。
未完
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