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2023年4月19日 (水)

新・私の本棚 長野 正孝 古代史の謎は「海路」で解ける 8/9 三訂

「卑弥呼や「倭の五王」の海に漕ぎ出す」 PHP新書 2015/1/16
私の見立て★☆☆☆☆ 根拠なき推定の沼  2017/12/12 補充再掲 2020/07/08 2021/07/20 2022/06/21 2023/04/19

*終幕の続き
 次に、何の繋がりもなく、とんでもないことが書かれています。まさしく、白日夢で、氏は何か薬物に耽っていたのでしょうか。

 倭国使節団は、長江で大敗した荊州水軍の船を渤海湾などで見たという趣旨を述べています。
 河川船団を、三十年かけて回航したといいたいのでしょうか。何の幻を見たのでしょうか。
 荊州船団の生き残りを転進させたとしても、孫権麾下の水軍支配下の長江中下流域をどうやって擦り抜けたのか不審です。

 そんな無茶をしなくても、皇帝が指示しただけで、帯方郡最寄りの青州で、易々と保証付き海洋船を多数造船できるのに、海船としての運航に耐えるかどうか不明の三十年前の川船を、延々と回航する意味が「わからない」のです。

 ホラ話として、誰も感心しないのです。ずるりと滑っていますが、氏は、寄席芸人ではないので、何も感じないのでしょう。

*倭人伝談義
 92ページで、陳寿「三国志」の魏志「倭人伝」に「倭国大乱」が書かれているかのような妄言が書かれていますが、倭人伝には「乱」れたと書いているだけであり、「大乱」と書いたのは、陳寿の後世で書かれた笵曄「後漢書」です。とんだ、いや、とんでもない、途方もない勘違いです。

 「邪馬台国が書かれたのは倭人伝だけ」というのは、また一つの妄言です。
 「邪馬台国」は、原文では「邪馬臺国」であって、笵曄「後漢書」の初出が孤立した起源であり、後世史書、類書に引用されていますが、裏付けはありません。
 衆知の如く、現存「三国志」に「邪馬臺国」はなく、書かれているのは「邪馬壹国」であるというのが客観的事実であり、これを、学術的な批判に耐える論拠を示して否定する論議は見られないのです。

 史書記事を誤記と主張するなら、主張者に重大な立証責任がある」というのが、学問上の常識ですが、著者は、ここでも無頓着で、出所不明の誤断を受け売りしていて、この不注意も、商業出版物の著者として、見過ごせない過誤です。
 以上のように、著者の文献依拠のあり方は、誤断と受け売りの混在です。
 不正確な史料引用は、不正確な情報源のせいですが、容易に原典を確認できることが多いから、著作の際に、厳重に検証するのが当然と考えます。

 一方、書紀」の史書としての信頼性は低いと賢明な判断を示していながら、ここで例示していないものの、随所で、書紀記事の史料批判を怠って、安易に受け売りしているのには同意できないのです。

*軽率な余言
 注意をそらす余言癖も健在であり、斉明天皇は、高齢の女帝でありながら、二百隻の船を率いて奈良を出た」ことにしていますが、時代違いとは言え、「奈良に海はない」ことは衆知で、とんでもないホラです。
 言い繕うとしたら、別に高度な思索を要しない言い間違いです。まして、二百隻の新造船が可能だった、実際に造船したという証拠は示されていません。「画餅」と言うものの、二百隻の海船の絵を描くことすら容易ではありません。まして、二百隻に乗船して波濤を越えるに耐える船員は、画に描くことはできません。
 それ以上は、当否の範囲外なので、追究しないのです。

*信頼性の欠如
 本書は、近来見受けるように、出版社として出版物を無条件に近い篤さで信頼されるべきものが、出荷検査無しに、瑕疵満載、傷だらけで上梓したものです。

 権威のない一私人には、「買ってはいけない」などと言う資格はありませんが、商用出版物に必須の校正の労が執られていない無責任な書籍であり、真剣に読むべきものでないと言わざるを得ないのです。ここまで、我慢して丁寧に批判しましたが、余の部分は推して知るべしです。
 つまり、日本海沿岸に海港の鎖があり、丹後から筑紫に至る水運が形成されていた」という、折角の提言は、本書の大部分がとんでもない出来損ないであるために、見向きもされないのです。

 折角の労作ですから、後世に恥を遺さないように、明白な欠点は是正し、全面改訂すべきであると思います。それでこそ、氏の主題が正当な評価を受けられるのです。

                               未完

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